糖尿病ラットにおける細小血管症について
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概要
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糖尿病におけるmicroangiopathyは通常, 腎症, 網膜症, 神経障害の3つに分けられ, これら糖尿病性細小血管症に関する研究は古くから網膜を中心に数多くの報告がある. また糖尿病患者の全身の毛細血管には程度の差こそあれ, microangiopathyが生じている可能性があり, 網膜血管系の変化と他臓器の血管系の変化との関連性は興味深いところである. しかし, 網膜血管系の変化と口腔諸組織の血管系の変化との関連性について研究した報告ほきわめて少なく, 未だその関連性は明らかではない. そこで本研究は, 糖尿病発症動物の網膜血管系の変化と口腔諸組織における血管系の変化との関連性を明らかにするために, Ohtaら (1989) の方法により, 微細血管鋳型標本を作製し, 立体的に網膜細小血管症の推移について観察した. また毛細血管壁の超微形態の変化について観察するとともに, 口腔領域の細小血管症に関しても歯肉内縁上皮の血管構築の変化によって観察を行い, 以下の結果をみた. 1. 網膜微細血管構築について 1) 糖尿病発症後6週より, 最初に細静派, 次に細動脈に徴候が認められるが, 毛細血管レベルでの変化は認められなかった. 2) 糖尿病発症後10週では, 脈絡膜側の毛細血管は直線的な走行を示し, 網目は粗くなっていた. 3) 糖尿病発症後16週では, 硝子体側と脈絡膜側の毛細血管網は粗く平面的となっていた. 4) 糖尿病発症後20週では毛細血管瘤を認め, 硝子体側, 脈絡膜側の毛細血管網は粗く, 口径は不規則となり, 交通枝は減少していた。また, 毛細血管の分布密度は低下し, 2層構造は不明瞭となっていた. 2. 網膜毛細血管の超微形態について 1) 糖尿病発症後10週で最初に周皮細胞の電子密度が低下し, 飲小胞が著明に減少していた. 2) 糖尿病発症後16週では周皮細胞で細胞内小器官が不明瞭となり, 内皮細胞は飲小胞やmicrovilli様の突起が減少して, 基底膜は部分的に軽度の肥厚を認めた. 3) 糖尿病発症後20週では周皮細胞において飲小胞はほとんど認められず, 内皮細胞の核は扁平化し不規則な形を示し, microvilli様の突起は減少し, 空胞変性を認めた. 基底膜は部分的に肥厚し, 剥離して, 重層化しているものも認められた. 3. 歯肉内縁上皮の微細血管構築について 1) 糖尿病発症後6週, 10週, 16週では対照群と同様の毛細血管網と毛細血管loopを呈していた. 2) 糖尿病20週群では, 急激に細小血管症が出現し, 内縁上皮下方の毛細血管は粗くなり, 内縁上皮の上方では毛細血管loopの高さが低くなり, 連珠状の毛細血管を呈していた. 以上のように, 網膜血管構築においては早期から段階的な変化が認められるが, 歯肉内縁上皮においては, 糖尿病発症後20週で急激な血管構築の変化が出現した. よって網膜は, 糖尿病の病期決定に有用であることが確認され, 糖尿病罹患期間が長くなると, 口腔諸組織にも細小血管症が出現することが明らかとなった.
- 大阪歯科学会の論文
- 1990-08-25