乳歯根吸収状態の違いにおける乳歯エナメル質の表面微細構造
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概要
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本研究は, 乳歯エナメル質のう蝕発生過程を明らかにする目的で, 乳歯エナメル質の表面および表層の微細構造観察を行った.着色や白斑の認められないヒト健全抜去乳歯のなかで, 7歳前後に連続抜去を理由に抜歯された歯根吸収のない乳犬歯および11歳前後に交換期障害を理由に抜歯された歯根吸収が完了している乳犬歯の歯冠部唇面から通法に従い乳歯研磨エナメル質を作製した後, 表層下脱灰病巣を作製した.各試料の表面微細構造の観察には, 原子間力顕微鏡(AFM)を用いて行い, AFM観察後, 同試料の縦断切片を作製し, 高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて, 乳歯エナメル質表層下脱灰病巣の観察を行った.AFM観察の結果から, 歯根吸収のない健全乳犬歯および歯根吸収が完了した健全乳犬歯のエナメル結晶は円形あるいは楕円形を示し, その大きさはそれぞれ, 40〜60nmおよび80〜100nmを示した.一方, 表層下脱灰エナメル質の両表面では, 小柱間隙および結晶間隙の拡大が認められ, その拡大程度は歯根吸収のない乳犬歯の方が大きい傾向を示した.また, 両表面のエナメル結晶は幅約400nmの正方形を示し, 健全エナメル結晶から再石灰化結晶へのtransformが行われていることが確認できた.縦断面のSEM観察結果から, 両乳歯エナメル質には表層下脱灰病巣が認められ, 歯根吸収のない乳犬歯は約25〜30μmの病巣深さを示し, 歯根吸収が完了している乳犬歯では約15〜25μmであった.すなわち, 歯根吸収のない乳犬歯の病巣内部はエナメル小柱の崩壊が激しく, 病巣底部に空洞が多数観察され, 歯根吸収が完了している乳犬歯の病巣内部はエナメル小柱の崩壊は明瞭ではなく, 小さな空洞が病巣底部に局在していた.以上のことから, 1.歯根吸収の程度の異なる乳犬歯健全エナメル質表面の結晶構造, とくに結晶の大きさが異なることが明らかとなった.この違いは乳歯エナメル質の結晶成長と考えられた.2.乳歯根吸収程度の違いによる乳犬歯エナメル質表面の結晶成長が, 表層下脱灰病巣の形成過程に影響を及ぼすことが示唆された.3.乳犬歯エナメル質に生じる初期う蝕は, 表層エナメル質が保持されている歯根吸収のない場合, 病巣底部に形成される空洞部から, 側方および上方に拡大することによって表層下脱灰病巣が形成される可能性が示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 2001-09-25
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