種々なる負荷がヒト歯根膜細胞に及ぼす影響(大阪歯科大学大学院歯学研究科博士(歯学)学位論文内容要旨および論文審査結果要旨の公表)
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概要
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歯根膜は歯周組織の中でも歯を支える組織として特に重要な役割を果たしている.今回, 歯根膜細胞に加わる負荷に注目し, 培養ヒト歯根膜細胞を用いて, 細胞に負荷が加った時の種々の影響を細胞増殖能, 細胞内LDH活性, 細胞形態およびサイトカイン発現について検討した.実験には便宜抜去小臼歯および抜去埋伏智歯の歯根膜から初代培養を行い, 5〜10代継代した細胞を用いた.6穴の組織培養用マルチプレートの各ウエル中の10%FBS含有D-MEM4mLに5×103個の細胞を播種し, 細胞増殖能の測定では48時間, 細胞内LDH活性とサイトカインの発現には細胞がコンフルエントになるまで培養した.その後, 直径33mm, 厚さ2mmのガラス円板の中心に直径5mm, 長さ30mmのガラス円柱を合着した負荷用マニピュレータを細胞上に静置し負荷を加えた.細胞への負荷には垂直負荷(0, 100, 200, 300, 400および500g)と捻転負荷(0°, 15°, 30°, 45°, 60°, 75°および90°)の2種類を組み合わせて, 10分間作用させた.垂直負荷は負荷用マニピュレータ3個の上部にプレートを静置し, その上に分銅を置いた.また捻転負荷は15° / 秒の割合で加えた.1)細胞増殖能:培養1〜7日目の細胞数をCOULTER Multisizer II(COULTER社)によって計測し, 細胞増殖能=負荷を加えた後1〜7日目の細胞数 / 対照の細胞数の計算式から求めた.2)細胞内LDH活性:細胞をPBS(-)にて洗浄し, 培養液を交換後Tween20を作用させ, その上清を50μLずつ96ウェルマルチプレートに移し, MTX"LDH"(極東製薬)を用いて, 波長570nmにて吸光度を測定し, 対照に対する百分率で示した.3)細胞形態:培養液を交換し, 培養2, 4および7日目の細胞形態を位相差顕微鏡にて観察した.4)サイトカイン発現:上清へのサイトカイン発現をIL-1β, IL-6, IL-8, TNF-αおよびGM-CSFについてSPECTRA MAX PLUS(日本モレキュラーデバイス社)を用いてELISA法にて測定した.5)統計処理:実験終了後, 細胞増殖能については二次元分散分析による多重比較を行なった.結果及び考察 細胞増殖能は, 垂直負荷が0gで捻転負荷が60°以上で著しい増殖能の低下を示した.垂直負荷が100gでは垂直負荷0g時とほぼ同様の増殖能を示した.垂直負荷が200gおよび300gでは捻転負荷45°以上で, また垂直負荷が400gでは捻転負荷が30°以上で, 増殖能は大きく低下した.垂直負荷500gで捻転負荷が45°以上では, 細胞増殖はほとんど認められなかった.細胞内LDH活性は, 捻転負荷が大きくなるにつれて低下した.また, 垂直負荷が0gと100gとの間では有意差は認められず, 垂直負荷が200gで捻転負荷が30°以上で細胞内LDH活性の低下が認められ, 垂直負荷が400g以上では捻転負荷に関係なく細胞内LDH活性の低下が認められた.さらに, 垂直負荷が500gになると, 捻転負荷が60°以上で細胞内LDH活性はほとんど認められなくなった.細胞形態は, 垂直負荷が0gで捻転負荷が15°以下の場合には, 対照に比較して変化は認められず, 培養2日目には典型的な線維芽細胞様形態を呈した.垂直負荷が100gで捻転負荷が30°を超えると, 細胞は円形を呈するようになり, 7日間培養後においてもコンフルエントに達しなかった.垂直負荷が200gで捻転負荷が45°を超えると, 円形を呈する細胞が多く, ディッシュ底面から剥離する細胞も多く見られた.サイトカイン発現では, IL-1βおよびGM-CSFの発現はほとんど認められなかった.IL-6およびIL-8は垂直負荷および捻転負荷が大きくなるにつれてその発現量が増加した.TNF-αは, 垂直負荷が0gでは捻転負荷が90°でも発現はほとんど認められなかったが, 垂直負荷が100gで捻転負荷90°および垂直負荷が200gで捻転負荷30°以上で発現が認められた.以上のことから, 細胞増殖能及び細胞内LDH活性は垂直負荷よりも捻転負荷の増大につれて低下が認められ, 捻転負荷が30°を超えると垂直負荷のみの場合に比して細胞形態に著名な変化が認められるようになった.サイトカイン発現では捻転負荷が増大するにつれてIL-6およびIL-8の発現が認められ, 歯根膜細胞に対する物理的な刺激だけでも好中球の浸潤を伴う炎症が惹起される可能性のあることが示唆された.
- 2000-06-25
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