耳下腺腫瘍に関する臨床的研究
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概要
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耳下腺腫瘍は大唾液腺由来の腫瘍のなかで最も頻度が高く, 臨床上遭遇する機会が多い. 本腫瘍には悪性腫瘍は少なく, 多くは良性の多形腺腫であるが, 組織学的に良性でありながら再発を繰り返したり, 経過中に悪性変化をきたすことから特異な腫瘍として注目されている. 本腫瘍を取り扱ううえで重要なことは, 被膜損傷による腫瘍細胞の散布を避けることにある. 良性か悪性かの判定は理学的所見と画像診断に頼らざるを得ないし, 治療に際してもほかの良性腫瘍のように核出術を行うと局所再発をきたす危険性があり, 診断・治療面において多くの問題点が残されている. そこで, われわれは自験例に基づき目下腺腫瘍の診断・治療の向上を目的として, 臨床的ならびに病理組織学的に種々なる観点から検討を加えた. 研究対象および方法 対象は, 1982年から1995年の間に外科学講座において手術を施行した耳下腺腫瘍27例である. 良性か悪性かの術前診断は問診および視診・触診の理学的所見に唾液腺造影法, 超音波診断, RI診断(^<99m>Tc, ^<67>Ga)およびX線CT診断(sialo-CT)の画像診断を加えて総合的に行った. 生検は腫瘍細胞の散布をさけるために全例に行っていない. 腫瘍の病期分類はTNM分類に従い, 病理組織診断はWHO分類に従った. 結果および考察 1.術前診断の補助診断法として画像診断を行った結果, それぞれの正診率は唾液腺造影法88.9%, 超音波診断81.8%, RI診断(^<99m>Tc, ^<67>Ga)70%, X線CT診断(sialo-CT) 87.5%であった. 画像診断法による正診率は良好な結果を得ているが, 各検査ともに fales positive, false negative症例があり, 病歴および理学的所見を参考にして総合的に診断を行うべきである. 良性・悪性の判定には唾液腺造影法と超音波診断がRI診断よりも優れていると考えられた. X線CT診断は腫瘍の局在性を知るには最も有効な方法と考えられた. 2.手術法は良性腫瘍には核出術と葉切除術を行い, 悪性腫瘍には葉切除術と耳下腺全摘術を行ったが, 必要に応じて頸部郭清術, 下顎区域切除術を加えた. 術後合併症として顔面神経を保存した21例中8例に術後一過性の顔面神経麻痺を認めた. そのほか, Frey症候群および唾液瘻を各1例認めた. 3.良性腫瘍21例のうち他因死の1例を除くと, 20例は再発なく5〜13年経過している. 悪性腫瘍の6例中5例は, 術後1年2か月から5年9か月の間に局所再発, 遠隔転移のため死亡した. 1例は再発なく8年経過している. 4. WHO(1991年)の病理組織分類に従うと, 上皮性腫瘍が26例と圧倒的に多く, 非上皮性腫瘍は1例のみであった. 良性腫瘍は21例でそのうち17例が多形腺腫で最も多い. 悪性腫瘍は6例で腺癌3例, 悪性多形腺腫2例, 悪性筋上皮腫1例であった. 多形腺腫17例のなかに腫瘍細胞の変性や増生が著しいもの, 被膜内に腫癌細胞の浸潤が著しい所見が認められ, 組織学的に良性とするには腫癌細胞の変性が強すぎるし, また悪性と判定するほど典型像が認められず, 良性・悪性の境界にあるものが4例認められ, これらを中間型あるいは準悪性として示し, 要観察例とした. WHO分類では良性・悪性の境界領域にある多形腺腫をすべて良性の多形腺腫として分類しているが, 臨床的にも病理組織学的にも明瞭に良性・悪性の分類ができないものがあり, さらに検討されるべき問題点を残している.
- 1996-09-25