ラット咀嚼筋および顎顔面形態に及ぼす咬合挙上の影響
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概要
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咬合位の変化が咀嚼筋組織や顎顔面形態の発育に影響を及ぼすことは報告されているが, 筋組織および骨形態両者の変化を観察した研究は少なく, 咬合位の変化に伴う咀嚼筋の性状の変化と顎顔面の形態変化とが発育途上においてどのように関連しているかは明かではない. 今回, これらの関係を究明する目的で, 幼若ラットの上顎両側臼歯部に高さの異なる挙上板を装着し, 咬合位を垂直的に変化させ, その後の咀嚼筋組織および顎顔面形態の成長様相を比較, 考察した. 実験方法 144匹の4週齢 Wistar系雄性ラットを無作為に3群に分け, 上顎両側臼歯部を1.0mm挙上したものをA群, 1.5mm挙上したものをB群とし, 対照群をC群とした. 観察期間は5, 7, 10, 13および 16週齢とした. 各週齢において, 1)咬筋および側頭筋の乾燥重量, 2)咬筋深層, 浅層および側頭筋の actomyosin adenosine-triphosphatase (ミオシン ATPase)染色による各筋の筋線維タイプの比率および線維の直径, 3)乾燥頭蓋骨および下顎肯の側面X線規格写真を撮影し, 線的, 角度的項目について解析し, 多重比較した. 結果 対照群と比較して, 1)咬筋重量に関してA群では全期間を通じて(p<0.01〜0.05), B群では7, 10および16週齢において有意に小さな値を示し(p<0.001〜0.01), 側頭筋重量はB群の7週齢において有意に小さな値を示した(p<0.001). 2)筋線維比率に関して, 各筋とも実験群において早期からタイプ2B線維の比率が高く, 咬筋浅層において, 5, 7および10週齢で実験群が有意に高い値を示した. また, 2B線維の比率は実験群では10週齢においたすでに対照群の16週齢における値に達していた. 3)筋線維直径に関して, 観察期間の早期に実験群が細い傾向にあり, 実験群の7週齢で有意に細い値が認められた. この時期, A群では咬筋深層2B線維で(p<0.05), B群では側頭筋2A線維を除くすべての筋の2A, 2B線維ともに細い値を示した(p<0.001〜0.05). 4)骨格形態で有意な差がみられたのは上下顎肯の歯槽部と, 咬筋浅層の停止部位である下顎角部であった. 観察期間を通じて実験群において有意な臼歯の圧下がみられ, また, 7週以降, 咬筋浅層が起始する頬骨弓の長さがB群で有意に短かった. 下顎角部の高さは実験群の5, 7および10週齢で有意に小さな値を示し, その値はA群よりB群のほうが小さかった. この変化に伴い下顎枝高の矮小と下顎角の開大がみられた. 考察 実験群において筋重量が少なく, 筋線維直径も縮小していたことから筋力の低下が考えられる. マウスの長指伸筋を用いて成長発育と機能を調べた研究では, 単位断面積あたりの筋力の変化は成長がピークとなる7〜8週齢において一過性の低下がみられ, これは成長に伴い, 筋が伸長されることにより筋端において筋節が新生され, 筋力を発揮する筋節に乱れが生じるためだと報告されている. 今回, 本研究の実験群では咬合挙上により筋が伸長され, より活発な筋節の新生と乱れが生じ筋力が低下していたと考えられる. 以上のことより成長発育期における咬合挙上は筋組織組成および顎顔面形態の発育に抑制的な影響を及ぼし, さらに, この影響は挙上量を大きくすればより著明となることが明らかとなった. また, 成長発育期の咬合挙上により筋線維の成熟化は促進されるが, その急速な線維の分化と直径変化により筋機能が低下し, 顎の発育も阻害されることが示唆された.
- 1996-06-25
著者
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