レンサ球菌の細胞表面特性について
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概要
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歯垢形成機序を界面化学的に解明する講座の一連の研究の一つとして, 本研究では口腔内レンサ球菌表面の電気化学的特性, 化学組成および超微細構造をそれぞれ zeta 電位測定, X線光電子分光 (ESCA) および原子間力顕微鏡 (AFM) 観察によって明らかにし, その特性の関連性について検討した. 成長曲線がピークに達するまで TSB 培地によって培養し, 遠心分離して集菌した Streptococcus rattus BHT (S. rattus BHT), S. cricetus HS-6, S. mutans OMZ 175, S. mutans K-1 および S. sobrinus 6715をそれぞれ蒸留水で3回洗浄後, 超音波処理して, 細菌の連鎖をはずし, 細菌試料とした. 細菌の zeta 電位は, pH 2.0〜9.0 の8段階に調整した 30mM のリン酸緩衝液および KNO_3 溶液中に細菌試料を分散して, 測定した. 用いた装置は, van Gils plots の測定結果から, 細菌試料の zeta 電位の測定に適していると判定された Zetasizer 4 および Leza 600 を用いた. なお, どちらの装置を用いても, 得られた zeta 電位はほぼ同じ値であった. 細菌表面の化学組成は, 凍結乾燥した細菌試料の表層 2〜4nm の元素組成を, X線光電子分光分析装置 (ESCA) を用いて広域走査および狭域走査 (O, N, CおよびP) により分析した. 細菌試料表面の超微細構造は, 原子間力顕微鏡 (AFM) を用いて, 細菌試料を2.5%グルタルアルデヒドで固定し, 蒸留水で洗浄後, 臨界点乾燥し, そのまま空気中 (印加圧: 74.1nN) および水中 (印加圧: 7.0nN) で観察し, 互いに比較, 検討した. 被検細菌は, zeta 電位が大きく, かつその pH 依存性の高い群 (S. rattus BHT および S. cricetus HS-6) と zeta 電位が小さく, かつその値が pH に依存しない群 (S. mutans OMZ 175, S. mutans K-1 および S. sobrinus 6715) とに大別できた. なお, zeta 電位の値には同ーイオン強度下では分散溶液の種類による差は認められなかった. ESCA 広域走査スペクトルから, O, N および C の3元素はどの被検細菌の表面にも存在するが, Pは zeta 電位の大きい群 (S. rattus BHT および S. cricetus HS-6) の表面にのみ認められた. このことは, Pの狭域スペクトルからも確認できた. すなわち, zeta 電位の大きい細菌群では, Pが電位の決定イオンであり, Pを多量に含むタイコ酸が zeta 電位の小さい群に比べ, 細菌表層に多いことが示唆された. S. cricetus HS-6 の空気中の AFM 像 (倍率: 6万倍および600万倍) は上方から圧迫された印加圧の影響を大きく受けた像であるのに対し, 水中の AFM 像は, 丸みを帯びた球形で, 90°回転させて観察してもその像は変わらず, in situ の状態を反映している. このことから, 細菌のようなやわらかい物質の AFM 観察は水中が有効であることがわかった. S. cricetus HS-6 の針状突起物 (約2.5nm) は, zeta 電位の小さい S. sobrinus 56715 の針状突起物 (約0.5nm) よりも長く, その突起層の表面の凹凸が大きく観察された. この凹凸は, 細菌表面に存在するリポタイコ酸を間接的にとらえた像であると考えられた. 以上のことから, 細菌表面の機能, 組成および形態を分析し, その特性の同時観察が可能となったことは, 歯垢形成機序の解明の一助として, きわめて有用であることがわかった.
- 大阪歯科学会の論文
- 1994-08-25