総義歯装着者および正常有歯顎者の咀嚼運動経路に関する研究
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概要
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義歯装着者と天然歯列者とでは咀嚼運動経路が異なっている. したがって, そのおのおのの咀嚼運動経路の違いを十分に理解することが, 総義歯を作製するために重要である. とくに咀嚼は大脳皮質からの指令によって起こされるリズミカルな随意運動であり, この運動には中枢へフィードバックされる末梢からの感覚入力が深く関与しているので, 咀嚼運動を分析し, その特徴を把握することは, その各個人の咀嚼機能を診断するうえで非常に大切である. さらに, 近年, コンピュータの発達によって大量のデータの分析が短時間かつ正確に行えるようになり, 平均咀嚼運動経路やそのバラツキを分析して各個人の咀嚼運動経路を総合的に把握し, 客観的に評価することができるようになった. しかし, 従来の総義歯装着者と正常有歯顎者との咀嚼運動経路の比較に関する研究は, リズム性の分析, 特定のパラメータの分析およびアナログ的な観察に基づくものなどがほとんどであり, 平均咀嚼運動経路やそのバラツキを分析した報告はほとんどみあたらない. また, 総義歯装着者は加齢による体性感覚機能, 運動系機能および歯の咬耗をはじめとする骨や関節などの硬組織の形態の変化が進んでいて, 若年層の有歯顎者に比べて顎口腔機能は低下している. ところが, 従来の比較研究で対象としている正常有歯顎者の被験者は20歳代がほとんどであり, 総義歯装着者と同年齢層を被験者としていない. そこで, 本研究では, 総義歯装着者と総義歯装着者の年齢を考慮した50〜60歳代の有歯顎者および20歳代有歯顎者との間で, 咀嚼運動経路とそのバラツキを比較分析し, 総義歯装着者および二つの年齢層の有歯顎者の咀嚼運動経路の特徴を検討した. 被験者は, 総義歯装着者10名 (CDW) と顎口腔系に異常を認めない個性正常咬合を有する有歯顎者の50〜60歳代成人10名 (NOA) および20歳代成人10名 (NYA) を選択した. カマボコを被験食品として MKG-K6 システムとコンピュータを用いて垂直成分1 mmごとの前後および側方移動量を測定し, それらのバラッキ (SD) の大きさを計算した. その結果, 最大開口量は NYA が他の群より有意に大きい値を示した. 最大側方移動量および平均前後移動量は開閉口相ともに3群間で有意差は認められなかった. 平均側方移動量は, 開口相では3群間で有意差は認められなかったが, 閉口相の1〜5 mmレベルにおいては NOA が NYA に比べて有意に大きい値を示した. 咀嚼経路の前後移動量の SD は, 開口相ではすべてのレベルにおいて, CDW が他の群に比べて大きい値を示す傾向にあった. 閉口相では1〜5mmレベルにおいて, CDW が他の群に比べて有意に大きい値を示した. 咀嚼経路の側方移動量の SD は, 開閉口相ともにすべてのレベルにおいて, NYA が他の群に比べて有意に小さい値を示した. 以上の結果から考察すると, 最大開口量と咀嚼運動経路の側方的バラツキは, 加齢による影響を大きくうけ, 咀嚼運動経路の前後的バラツキは, 歯の有無による影響を大きくうけている. このことから, 咀嚼運動経路に対する加齢の影響は, 歯の有無による影響とは異なったパラメータに現われるため, 高齢者の咀嚼運動については加齢と歯の有無の両方を考慮する必要がある.
- 1994-08-25
著者
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