メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の遺伝的検索
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概要
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院内感染症の原因菌として注目をあびているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は, 容易にヒトや病院環境に定着し, おもに接触感染によりcompromised hostに肺炎や敗血症などの重篤な全身感染症を引き起こす。一方, 従来から, コアグラーゼを産生しないなどの点で, MRSAより病原性が弱いと考えられてきたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)による感染症が, 最近, 急速に増加し, MRSAと同様, 院内感染症の原因菌として問題になってきている。MRSAはpenicillin binding protein (PBS)の代替酵素であるPBP 2'を保有し大部分のβ-lactam剤に耐性を示す。PBP 2'は, chromosomal DNAに存在するmec A遺伝子に支配され, mec A遺伝子の有無がStaphylococcus aureus (S. aureus)のβ-lactam剤耐性を大きく左右する。MRCNSの多くも, MRSAと同様にmec A遺伝子を保有し, β-lactam剤耐性を発揮する。またS. epidermidisは, S. aureusよりも先行して多剤耐性化し, 多剤耐性遺伝子をS. aureusに伝達してMRSAに変えるといわれており, S. epidermidisやS. haemolyticusのなかには, MRSAが唯一感受性を示すvancomycinにも耐性を獲得した菌株が出現している。本研究では, このような多様な表現形質を示すMRCNSの遺伝学的背景を明らかにするため, MRCNS をDNA-DNA hybridizationで同定し, 各菌種のchromosomal DNA, mec A遺伝子, plasmid DNA, phage誘発性, β-lactamase産生性およびplasmid DNA上のmec A遺伝子を検索し, 以下の成績を得た。DNA-DNA hybridizationによる同定では, 供試菌25株のうち, 15株(60%)がS. epidermidisであった。供試菌のchromosomal DNAは, Sma IでDNA fragment数が平均7本に分かれ, fragment sizeの範囲は約60〜750 kbに分布した。DNA fragmentによるtype分類では, 17株は14 genotypeに分類され, そのうち12株のS. epidermidisは, 9 genotypeに分類された。mec A遺伝子の検索では, 17株のうち, 16株(94%)からmec A遺伝子が検出された。またplasmid DNAの分析では, 1株を除く16株(94%)は, すべてplasmid DNA を有し, 各plasmid profileのpatternは異なっていた。おのおのの菌株が保有するplasmid band数は, 平均3.5本で, DNA sizeの範囲は約900〜16,000 bpsの位置に分布した。供試した17株のうち, 7株(41%)にphage粒子が, 6株(35%)にβ-lactamase産生性が認められた。Strain 70のplasmid band 5本とstrain 75-1のplasmid band 1本からmec A遺伝子の検出を試みた結果, いずれのplasmid bandからもmec A遺伝子は検出されなかった。以上の結果から, 本研究で供試したMRCNSは, mec A遺伝子を保有し, chromosomal DNAのfragment patternがさまざまで, 種々のplasmid DNA profileを有することが明らかになった。なかでも, S. epidermidisは, 最も分離頻度が高く, 全菌種からplasmid DNAが検出され, その各profileが異なっており, 同菌種でもさまざまなchromosomal DNA fragmentのpatternが認められ, 約30%にphageの感染があったことなどから, 本菌は同菌種あるいは異菌種間で形質導入などによるDNAの授受が頻繁に行われ, 他のStaphylococcus属への遺伝子の水平的伝達に大きな役割を果たしている菌種であると考えられる。
- 大阪歯科学会の論文
- 1997-06-25