垂直的咬頭干渉が咬合力発現に及ぼす影響
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概要
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咬頭干渉の生体への力学的な作用に着目し, 当該歯の動揺度や脈動, あるいは歯根膜の組織的変化から歯周組織への影響を観察した研究は数多い。しかし咬頭干渉の垂直的な高さの違いによる影響を, 干渉歯に発現する咬合力の変化からとらえたものは見当たらない。咬頭干渉は, 歯の接触時の上下的偏位要素が強い垂直的咬頭干渉と下顎の側方運動を障害する要素の強い水平的咬頭干渉に分類されるが, 本研究ではそのうち垂直的咬頭干渉の高さの違いにより当該歯に加わる咬合力がどのように変化するかを観察した。さらに咬合力発現に呼応した筋電図や閉口終末位の安定性から咀嚼系の干渉に対する生理的な反応を分析した。方法: 被検歯に加わる咬合力の計測には下顎第一大臼歯髄室内に装着可能な3次元咬合力計を使用した。センサはその中心が被検歯咬合面の中央でかつ歯軸と平行になるように装着し, 咬合面部の形態は下顎咬合平面に平行な平面とした。さらに上顎第一大臼歯舌側咬頭に咬合面の裂溝に沿って維持部を持つ鋳造体を作製し, 咬合力計咬合面部中央に1点で接触するよう調整, 装着した。筋電図被検筋は両側側頭筋後部および咬筋浅部中央とし, 切歯点運動の計測にはMKG K-6を使用した。垂直的咬頭干渉の付与には10, 30, 50, 70, 100, 200, 500, 1000および2000μmの9種の厚みを持つ既製のステンレス箔を平坦な咬合面部に密着させることにより付与した。被検運動はclenchingおよびtappingとし, clenchingは2秒間の最大咬みしめを10回行わせ, tappingはその強さ, スピード, 開口量を可及的に一定にするよう指示し, 25ストローク程度行わせた。咬合力に関しては咬合力力積とその持続時間について, 筋電図に関してはMKGのvertical曲線を参考に歯の接触前および接触後に2分し, 歯の接触前の平均電位(APTC・MV), 接触後の積分値(AOTC)とその持続時間(DOTC)について検討した。MKGについては歯の接触時点の中心咬合位(ICP)からの垂直的変位量, および同時点の水平, 前後成分の標準偏差(SD)を測定した。結果および考察: 1. clenchingにおいては干渉の高さが10〜100μmでは干渉が高くなるに従い咬合力力積が増大した。10μmでコントロールの1.2倍, 100μmで5.9倍の咬合力が発現した。筋活動量(AOTC, DOTC, APTC・MV)に変化は認められなかったことから, この咬合力力積の増大は被検歯の力の負担率の上昇によるものと考える。2. tappingでは咬頭干渉が10〜100μmの場合, clenchingと同様, 被検歯の負担率の上昇によると思われる咬合力力積の増大が認められた。10μmでコントロールの1.7倍, 100μmで5.3倍の咬合力が発現した。しかし200μm以上で咬合接触点数の減少に伴い下顎が不安定となり咬合力力積, 筋活動量(AOTC, DOTC, APTC・MV), 閉口時の下顎位に大きな変化が生じ特異点が認められた。被検者3名中2名では咬合力の増大に対する抑制, 1名では咬合力力積のさらなる増大が認められた。3. 以上のことから咬頭干渉はその高さが低くても, 急性的には当該歯の歯周組織に及ぼす外傷力は極めて深刻であり, 干渉の高さが100〜200μmの間でtapping運動の恒常性が乱れ, 咬合力の抑制や促進など特異点が存在することが示唆された。
- 1997-06-25
著者
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