日本の機械式ウオッチの品質向上と輸出検査
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概要
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本稿は、筆者がおこなっているカメラ、双眼鏡、ミシンと同様、機械式ウオッチの輸出品の品質向上と輸出検査による品質向上効果を、時系列的、定量的に検証した。主に1945年から1979年までを対象に、輸出時ウオッチ品質は輸出検査のロット不合格率を、主要輸出先の米国市場品質は、発行部数が400万部と影響力がある『コンシューマー・レポート』誌の商品テスト結果に基づきおこなった。その結果、日本の機械式ウオッチの品質は、敗戦直後のこともあり、カメラ、双眼鏡、ミシンと同様に、輸出検査不合格率が高率で、外観、性能ともに悪かった。しかし、1950年以降、ウオッチの品質は、著しく向上し、東京オリンピックやスイス天文台コンクールなどで、1970年ころには世界的に高品質が認知された。また、輸出検査の品質向上効果は、敗戦直後から数年間、粗悪品排除に大きな効果的が確認できた。しかし、1960年代以降の輸出検査ロット不合格率の低位安定は、輸出検査が品質向上・維持にインセンティブとして、補完的に作用したとしかいえなかった。一方、同誌の商品テスト結果は、1963年に日本製OEMの9機種が良い評価をえたが、1964年以降、なぜか、ウオッチを商品テスト対象にしなかった。それに比べ日本製カメラは、1964年以降の同誌に299機種がテストされ、しかも、お買得品39機種に推奨された。先の日本製ウオッチの高品質情報(ブランド)は、日本製カメラや定評のあるスイス製ウオッチに比べ、生産者と米国の顧客との情報の非対称があったといえよう。近年、日本ウオッチ産業は、最重要部品のムーブメントでは、数量、品質、技術において世界のリーダーである。しかし、生産金額(海外生産含む)では、スイスの超高級ブランドの機械式ウオッチやファッション性と高品質を備えもつスウオッチなどに対して、約1/4の約1,860億円に過ぎない。今後は、ブランド力の向上など非価格競争力の強化が大きな課題と思われる。ニコラス・ハイエク(現・スウオッチ社会長)の「欧米の顧客は、全く同一のウオッチ(裏蓋はスイス・日本・香港製)でも、少し高くてもスイス製を選んだ」というブランド効果の測定結果[スライウオツキー(1997)]が、端的に物語っているようだ。
- 2004-09-30