死がもたらす恵み
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概要
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我々は自然な傾向性として死を忌避するし、科学者もまたそれを援助している。しかしながら死の本当の姿を見れば、決して我々は無条件に生ばかりを尊びはしないだろう。ハンス・ヨナスは死が代謝活動という生命の基本活動のもう一面であるという指摘をしつつ、この死の現象の意味を問いつめる。死には二つの側面がある。一つは代謝活動によって存在する生命が絶えず曝されている死の可能性、もう一つは生命の時間的限界という死の確実性である。この限界を越えて生き続けることが、果たして有意義なのかどうかとヨナスは問う。まず人類全体にとってどうかと問うならば、死によって新来者のための場所ができ、それによって人類固有の文明・文化も発展継承される。他方で個人にとっては、記憶力の限界によって過去の記憶を削除するか、現在の現象に一切反応せず、一定時期の過去のみに生きるか、ということになる。いずれにせよ、好ましい結果はもたらされない。
- 日本生命倫理学会の論文
- 1998-09-07