岡本かの子の衣作り : 一平、太郎を巡って(家族III 家族の諸相と現代における課題)
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概要
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岡本かの子の短歌のうちに衣作りを詠んだものが幾首もある。素直で澄明な表現をとり、万葉集の衣作りうたを思わせる。その歌には「縫う」「紡ぐ」「針」「糸をほぐす」「干す」「織る」「張板」「衣をたたむ」などが詠み込まれて、かの子の手の動きもよくわかる。青山北町の貧窮の時代に、かの子は自分の着物を解いて幼い太郎のために仕立て直した。外に出た太郎が近隣の者に揶揄されるのを、かの子は窓の内から覗いて心を痛めた。かの子はまた一平のために丹前さえ縫った。そんなかの子はしかし手先が不器用であった。だからたびたび作り方を間違えた。それでもかの子は縫う。いくら下手でも、かの子は衣作りが好きだった。家族のための衣縫いはかの子の心を愛で満たしてくれた。一家総出のヨーロッパ滞在から帰国したあと、パリの太郎に送金するために皆で倹約に励んだ。岡本家の男達は太郎の置いていった着物を仕立て直して着た。男達とは一平、恒松、新田である。かの子、一平、恒松、新田と、違いパリの太郎を繋ぐ輪がかの子の家族であり、一平のいう「愛の講中」であった。
著者
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