価値多元化社会における教育の目的 (<特集>価値多元化社会における教育の目的)
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概要
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現代社会の変化の動向を言い表わすキーワードの一つに,価値(観)の多様化・多元化がある. 本稿は,このような「価値多元化社会」がどのような特徴をもつのか,またそこではどのような目的に向かって教育が行われるべきなのかについて,総括的な考察を試みようとするものである. 価値多元化社会の特徴は,(1)社会の構成員の価値志向における著しい個別化・多様化,(2)それと関連して,社会の構成員の価値観における共通の理想・価値・規範の欠如,(3)国際化の急激な進展と相挨って,異なる民族的,文化的背景をもつ人々が各々の多様性を踏まえながら,社会的な統合を維持しようとする「多様性の中での統合」である. 我が国でもこのような特徴を踏まえ,今後の社会の変化に対応する教育目的を設定する努力をしなければならない. その際,やはり我が国の現行の教育法規における教育目的の検討から始められるべきである. しかし,教育基本法第1条に規定された教育の究極目的としての「人格の完成」は余りにも抽象的で,一般的,包括的であり過ぎ,もはや教育実践を規定し,動かすカになっているとは言いがたい. 私は,その「人格の完成」に代わる新しい教育目的として「人間らしく生き抜くカ」の育成を挙げたい. もとより,それは,まだ抽象度が高く,人格の完成と比べてやや具体的になったに過ぎない.「人間らしく生き抜くカ」のより一層の具体化と構造化が必要であり,その内容としては,国民すべてが共有すべき基本的で,必須の(1)知識・技能と(2)価値や理想、信念が挙げられる. 私は,(1)の国民に必須の基本的な知識・技能としては,身体的能力,基本的な思考能力及び国語と外国語によるコミュニケーシュン能力を,(2)の国民に共通の価値や理想,信念に関しては,自他の生命と人権を重し,自己の価値観の確立を図るとともに,他者の抱く価値観をも理解・尊敬し,共生と寛容の精神に基づいた国家と人類社会の建設に貢献する人間の育成を提案したい.
- 日本教育学会の論文
- 1997-09-30