ロテノン誘導体の化学構造と薬理作用
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概要
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ロテノンは戦後現われた有機合成殺虫剤と違って人畜に対し低毒性で, また植物に対する薬害も少ない優秀な天然殺虫剤の一つである。すでに筆者らは, ロテノンはこん虫体内で神経および筋肉の細胞呼吸を抑制し, 死に至らしめるが, その細胞呼吸抑制の一部はL-グルタミン酸脱水素酵素系の抑制によるものであると結論した(深見・富沢, 1956)。さて今回はロテノンの化学構造と殺虫力との関係を知るために, こん虫筋肉L-グルタミン酸脱水素酵素阻害力, 殺虫力およびこん虫神経の興奮伝導抑制力を, ロテノンおよび34種のロテノン誘導体について比較検討した。こん虫L-グルタミン酸脱水素酵素としては, カブトムシ筋肉のミトコンドリアを材料として, グルタミン酸添加時の酸素吸収量を測定した。殺虫試験としてはアズキゾウムシを使用し, 常法によって実験を行なった。またこん虫神経の興奮伝導は, ワモンゴキブリ腹部神経索の単一刺激による活動電位を, オシログラフを用いて測定した。使用したロテノン誘導体は東大農学部有機化学教室より供与されたものである。そのうち17はすでに化学構造が明らかにされていたが, 残り17は新しく作られたものである。これらについて酵素阻害力, 興奮伝導抑制力および殺虫力の間に明らかな平行関係がみられた。殺虫力と酵素阻害力との関係については, METCALF&MARCH(1949)が有機リン殺虫剤のコリンエステラーゼ阻害力と殺虫力との間の平行関係を見いだして以来, 他の殺虫剤では初めてである。また化学構造と殺虫力との関係については, 従来密接な関係があるといわれていたchromano-chromanone核は必ずしも必須条件ではなく, chromano-chromanol核も有望である。さらに11位がアセチル化されたアセチルロテノンも殺虫性があった。ロテノンの殺虫性においては, また7位および8位におけるトランス構造のほうがシス構造よりも重要であった。
- 1959-12-30
著者
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楢橋 敏夫
農林省農業技術研究所病理昆虫部・東京大学農学部害虫学研究室
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深見 順一
農林省農業技術研究所病理昆虫部・東京大学農学部害虫学研究室
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中津川 勉
農林省農業技術研究所病理昆虫部・東京大学農学部害虫学研究室
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中津川 勉
農林省農業技術研究所
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