筑豊石炭一括販売所について(明治の企業家 杉山徳三郎の研究)
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概要
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明治14年に目尾坑主杉山徳三郎が蒸気機関による汽力採炭に成功して以来,筑豊炭田の石炭産業は目覚ましい発展を遂げ,明治18年11月には政府・県の要請もあり,筑豊石炭坑業組合が設立された。しかし,筑豊の坑主達がこの組合を設立した目的の一つに当時支配力を強めつつあった石炭問屋から市場の主導権を取り戻す意図があり,そのために彼らは組合の一機関として石炭一括販売所を設け,杉山徳三郎を一括販売人に任命した。この販売所により,彼らは団結して炭価を維持し,坑主間金融により運転資金の確保を図ろうとしたのである。この試みは幕末以来幾度か行われてきた坑主による市場支配への最後で,最大の挑戦であったが,「19年恐慌」と後世に呼ばれた激しい炭価の下落の前に約半年しか命を保つことが出来なかった。この一括販売所については石炭産業の研究者の間で古くから知られていたが,史料の不足からその内部にまで立ち入った研究は現在まで発表されてこなかった。そこで本論では蒐集した文献と,デジタル処理により復元された杉山徳三郎の「明治19年日記」の断片を基に,その内容と機能を調査し,この挑戦が不可避的に失敗に至らざるを得なかった理由を明らかにするよう試みた。結果として,改めて生産者による市場支配の困難さと技術系企業家の限界が見えてくるようである。
- 2003-03-31
著者
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