中期太宰文学のダイナミクス
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概要
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『新ハムレット』の主人公ハムレットは、「大人」の世界と「子供」の世界との間で、明確にその位置を定められずにいる。そこに中期太宰文学の位置取りの中途半端さのあらわれを見てきたが、はたしてそうだろうか。中期の太宰文学には、大人/子供、俗/反俗、リアリズム/ロマンチシズム、生活者/芸術家などの二項対立が頻出するが、作品を読み込んでいって明らかになるのは、それらの二項対立の一方に傾斜しすぎると、危機に陥るという考え方である。太宰ハムレットは、むしろ積極的に、「大人」の世界と「子供」の世界との間で宙づりになっていると見るべきなのではないだろうか。そしてそうした二項の力学的均衡の上にこそ、中期太宰文学の安定といわれるものは成立しているのである。