わが国インバウンド・ツーリズムと地方の課題
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概要
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本稿は、国際客の呼び込みであるインバウンド・ツーリズムを理論的に考察するとともに、訪日観光とウエルカムプラン21の状況を知ることで、わが国地方がインバウンド・ツーリズムを振興する上での真の課題が何であるかを示そうとするものである。その理論的考察によって、インバウンド・ツーリズムが国内観光と異なり国民経済を拡大させるものであり、それを促進する際に二国間の国際観光交流のレベルを超えたところの不特定多数の国・地域からの国際客の呼込みが欠かせないということ、その状況把握によって、それが東アジアからの団体客をターゲットにしたマーケティング戦略を必要とする、ということが示される。そしてそこから浮き彫りにされるわが国とくに地方におけるインバウンド・ツーリズム振興の課題が次の3点であるということが明らかにされる。第1は、現実に観光団の送客を担っているのが現地旅行業者であり、かれらに対する観光プロモーションが個々の観光客の需要満足よりも優先される点である。完全競争市場を理念とする先進国では、とかく観光客へのアンケートなどの市場調査に基づいた国際客の受入れ態勢が敷かれがちで、わが国もどちらかと言うとその傾向にある。第2は、その現地旅行業者が東アジアに共通した強い官僚統制の下にあることから、送客国の観光担当の官僚への観光プロモーションが欠かせない点である。それはわが国の一地方・一観光業者・一協会レベルでは限界があるので、わが国地方において事前に広範な連携がなされていなければならない。その際、途上国に多いとされる汚職や腐敗といかに交わらないかも課題となる。第3は、その政府官僚が各国の観光法規などに縛られているので、送客国の観光法規などの理解とそれに対応した受入れ態勢の迅速な対応が重要になる点である。要するに、インバウンド・ツーリズムを振興するには、国際客の個々の需要に応えるような受入れ態勢の整備の前に、国際客を送り出す現地旅行業者およびそれを管理・規制する政府・観光当局そして観光法規を掌握しそれに応えていく姿勢、すなわち「市場よりも計画」を優先する姿勢が大事である。とりわけ開発独裁型の発展を遂げてきた東アジアにおいてはそうである。
- 2003-01-31