環境政策の一般均衡分析 (西川俊作教授退任記念号)
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概要
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昨年12月に京都で開催された,いわゆるCOP3において,京都議定書として,参加161国が2008年から2012年の期間に地球温暖化ガスの削減に向けて努力することが合意をみた。我が国の現状を踏まえて,現時点でそこでの目標の達成の可能性とそのための政策施策を検討しておくことは重要である。環境資源のもつ特性を,経済学では,公共財であるという特性と外部性の特性とによって特徴づけている。この特性は,環境保全の問題を扱うためには,何らかの法的な枠組みが必要とされることを意味している。もし各経済主体が私的な利益追求にまかせて行動した場合には,結果は公共財としての環境をますます悪化させ,外部不経済を拡大させることになる。環境保全に関する政策手段は,いろいろな可能性を含んでいるが,この論文では,この市場の失敗を補う手段として導入される,いわゆる市場機能を活用した政策手段に絞って,その経済構造に与える影響を評価したいとおもう。具体的にはCOP3において,地球温暖化対策として2010年の温室化ガス排出量の数量目標が設定された。その実現に向けての各種の政策が実行されつつあるが,ひとつの政策として,炭素税の導入が考えられている。その導入の経済効果の評価は,経済構造の相互依存のメカニズムを反映して複雑な波及効果をもつことが予想される。我が国の経済を定量的に捉える多部門一般均衡モデルを用いることによって, CO_2排出量削減目標の達成の可能性を検討し,目標実現に向けての施策が,我が国経済構造にいかなる影響をもたらすかを推察する。モデル分析から導かれた定性的な検討の結果は,次のように要約できる。"省エネルギーの実現のための投資の拡大が,産業,民生,運輸すべての部門において,短期的にはコスト上昇の負担を強いることになる。とりわけ,エネルギー集約的な産業におけるこの負担は大きく,産業構造はかなり急速な変化を強いられる。それに伴って雇用構造にも変化があらわれ家計ベースの負担もかなりのものとなる。しかし,一方では,省エネルギーヘの投資が,エネルギー効率を含め,産業,運輸部門の生産性を向上させることなり,中長期的には,資源配分の効率利用の結果として,経済成長を維持させる効果をもっていることとなる。"
- 慶應義塾大学の論文
- 1998-10-25
著者
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