<学位論文要旨>大気液相中有機酸の濃度,沈着量および発生源に関する研究
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概要
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第1章序論 低分子量のカルボン酸は有機酸と呼ばれ,大気中の存在量も比較的多い有機化合物である。これら有機酸は,世界規模での降水の酸性化に大きいところでは数十%も寄与し,さらには陸水の酸性化にも寄与しているなど,大気化学的,地球化学的にその役割が大きいことが知られている。大気中有機酸は,自然起源または人為起源の炭化水素,アルデヒド類が大気中で光化学反応により生成するか,またはこれらの発生源から直接有機酸が放出され生成すると考えられている。しかしこれらの収支およびその詳細については,未だ明らかになっていない。また露は大気液相の中でも研究が進んでいない分野の一つである。露の化学組成の研究は1960年代後半に始まったとされるが,今日までの報告は20編程度であり,その挙動の解明にはほど遠いのが現状である。本博士論文では,降水や世界的に測定例の少ない露といった,大気液相中有機酸の測定を行い,その濃度,沈着量および発生源について考察を行った。また有機酸の人為発生源の一種である,自動車排ガス中有機酸濃度の測定を行い,発生量の見積りを行った。第2章降水中有機酸の濃度,沈着量および発生源 広島県東広島市において降水試料を採取し,イオンクロマトグラフィーにより有機酸濃度の測定を行った。降水中有機酸濃度は体積加重平均で,ギ酸3.4μM(M=mol dm^<-3>),酢酸2.4μM,シュウ酸0.24μMであった。これらは他の文献にある都市近郊地域での降水中有機酸濃度とおおむね同様の値であり,大都市地域での値と比較するとやや低い値だった。また降水による有機酸の年間沈着量(1996年から1998年の平均値)は,ギ酸4.8mmol m^<-2>,酢酸3.3mmol m^<-2>,シュウ酸0.32mmol m^<-2>であった。この数値は,日本国内でも世界的に見ても標準的な値であると推察された。降水中全酸性物質に占める割合は,有機酸全体で平均7.9%であり,有機酸は降水の酸性化の原因物質として無視できない物質であることが確認された。有機酸の濃度,沈着量および全酸性物質に占める割合は季節変化を示し,春季,夏季に高いことがわかった。また回帰分析,主成分分析といった統計解析の結果から,有機酸は人為活動を主な発生源とする,水素イオン,非海塩性硫酸イオン,硝酸イオンと相関が良いこと,また有機酸の中でもギ酸,酢酸に比較して,シュウ酸は起源および挙動がやや異なることが推察された。以上の結果から,東広島における降水中有機酸は,主に人為活動起源の有機酸が直接放出されるか,前駆物質の光化学反応を発生源としていることが示唆された。ギ酸と酢酸について気相/液相の平衡濃度について試算を行った結果,気相平衡濃度は東広島での実測平均値ギ酸0.86ppbv,酢酸2.6ppbvと比較的よい一致を見た。さらに有機酸の年間沈着量を計算したところ,乾性沈着速度を1cm s^<-1>と仮定した場合,いずれも乾性沈着量が湿性沈着量より卓越し,乾性沈着量は全沈着量のそれぞれ71%および92%を占め,降水以外の沈着量が大きいことが分かった。第3章露中化学成分の濃度,沈着量および発生源 広島県東広島市と極楽寺山の南側斜面,北側斜面の計3地点で露の採取を行い,有機酸を含む化学成分濃度の測定を行った。3地点とも露のpHの平均値は5.0∿6.0の間だった。また露中化学成分の体積加重平均濃度は,おおむね東広島が極楽寺山の2地点よりも高かった。有機酸の露中体積加重平均濃度は,東広島でギ酸9.0μM,酢酸11.8μM,シュウ酸0.23μMであり,同地点での降水中濃度と比較してギ酸,酢酸は数倍高く,シュウ酸は同程度であった。またこれらの化学成分濃度を他の露の測定例と比較すると,本研究での東広島は報告されている範囲内であるのに対し,極楽寺山は特に濃度が低く,清浄であると判断できた。露の酸性物質の割合については,有機酸や亜硝酸イオンといった弱酸の寄与が大きく,東広島ではそれぞれ15.9%を占めていた。次に露による化学成分の年間沈着量について,気象データから試算を行った。その結果,年間の降水に対する露による沈着量の割合は,有機酸ではギ酸5.2%,酢酸7.4%,シュウ酸1.8%と酢酸がやや高いと推察された。他の化学成分も水素イオンを除き,数%程度と推察された。東広島において同期間に採取を行った,露と降水の化学成分の比較を行うと,pHについては,露がpH5.91,降水がpH4.58と露の方が高い結果となった。酸性物質についても,露では有機酸や亜硝酸といった弱酸から生じる成分の割合が大きい。これらの差は,降水と露の生成過程の違いに基づく,地表付近における大気への曝露時間の差によるものと考えられた。また亜硝酸と硝酸イオンの濃度から,露中に光化学的に生成するOHラジカルの生成速度を計算した。
- 広島大学の論文
- 2000-12-28
著者
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