<学位論文要旨>鳥類における産卵誘起ペプチドの同定とその作用機構
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概要
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序論 鳥類の卵管は漏斗部,膨大部(卵白分泌部),峡部,子宮部(卵殻腺部)及び膣部よりなる。卵巣が排卵した卵は漏斗部で受け取られ,膨大部で卵白が分泌され卵黄膜に密着する。峡部で卵白を覆うように卵殻膜が形成され,子宮部で卵殻膜の表面に卵殻が作られる。鳥類の産卵は卵管子宮部(卵殻腺部)にある卵が膣部を経て体外に放出される現象であり,子宮や膣の激しい筋収縮により導かれる。これまでの内分泌学的研究により,鳥類の産卵にはホルモン調節が存在することが知られている。脳下垂体後葉ホルモンのアルギニンバソトシン(AVT)と卵巣で合成されるプロスタグランジン(PGE_2,PGF_<2α>)が産卵調節に関与していることが明らかにされている。一方,卵管の子宮や膣の筋層には多くの神経線維が分布することから,産卵における神経性制御が示唆されていたが,その制御機構は永く不明であった。本研究は産卵の神経制御機構を解明することを目的として,鳥類の卵管に投射するニューロンに存在する神経ペプチドを同定し,その作用機構を解析した。 第1章 : 産卵誘起ペプチドの単離・同定と卵管内局在 卵管に投射するニューロンの終末から放出され子宮の筋収縮を導く神経ペプチドを同定した。まず,成熟したウズラの卵管から,逆相系HPLCと陽イオン交換HPLCを用い,卵管の子宮と膣の筋収縮を導くペプチドの単離を試みた。その結果,子宮や膣の筋収縮を著しく増強するペプチドが単離された。アミノ酸配列分析と質量分析により,単離したペプチドの一次構造を解析したところ,Gly-Trp-Thr-Leu-Asn-Ser-Ala-Gly-Tyr-Leu-Leu-Gly-Pro-His-Ala-Val-Asp-Asn-His-Arg-Ser-Phe-Asn-Asp-Lys-His-Gly-Phe-Thr-NH_2と推定された。推定構造に基づき合成したペプチドと天然ペプチドのクロマトグラム上の挙動を比較したところ,合成ペプチドは天然ペプチドと同じ挙動を示した。さらに,合成ペプチドには天然ペプチドと同様に子宮と膣の筋収縮を誘起する作用があり,推定された構造が正しいことが確認された。また,効果の閾値は子宮では10^<-10>から10^<-9>M,膣では10^<-9>から10^<-8>Mであった。このペプチドの構造はすでにニワトリの腸管から単離されていた鳥類のガラニンの構造と同じであった。ガラニンは,脳腸ペプチドとして,ヒト,ブタ,ヒツジ,ウシなど数種の哺乳類からも単離・同定されている。鳥類のニワトリとウズラのガラニンは同じ構造であるが,哺乳類のガラニンとはC-末端側のアミノ酸の配列が少し異なる。ガラニンが脊椎動物の生殖腺系に存在していることは本研究により初めて明らかになった。ガラニンの産卵調節への関与が以上の結果から示唆されたので,本研究ではさらに,合成ガラニンを通常の産卵の4∿7時間前のウズラに投与して産卵の有無を個体レベルで解析した。その結果,予想どおりガラニン投与個体の多くは直ちに産卵を行い,その効力は用量に依存して増加した。卵管から産卵を誘起するペプチドを同定したので,次にこのペプチドの卵管内局在を解析した。ペプチドの抗体を作成して免疫組織化学的解析を行った。その結果,免疫反応は卵管内では部位特異的に検出され,ガラニンは子宮や膣の筋層に投射する神経繊維に存在していることがわかった。さらに詳しく解析したところ,卵管内には免疫陽性の細胞体は確認されなかった。 第2章 : 卵管における産卵誘起ペプチド受容体の検出と卵管内局在 鳥類の産卵は卵管の子宮前層に投射するニューロンの終末からガラニンが放出され,ガラニンが子宮の激しい筋収縮を導くことで産卵を誘起すると考えられる。以上の仮説を証明するには,卵管子宮部に存在するガラニン受容体を検出する必要がある。そこで,ウズラの卵管から単離したガラニンと同じ構造のペプチドを合成し,これを^<125>Iで標識して卵管組織とのin vitroの結合実験(ラジオレセプター・アッセイ法)を行った。成熟した卵管の粗膜分画を^<125>I-ガラニンとインキュベーションして平衡状態に達したところでガラニン結合量を調べたところ,卵管に高い結合量が検出された。このガラニン結合は,20℃の反応では1時間で最高値を示し,トリのガラニンにより競争的に阻害された。スキャッチャード・プロット解析により解離の平衡常数(Kd)を算出したところ,0.249nMであった。以上の解析により,成熟したウズラの卵管には高親和性のガラニン受容体が存在することが明らかになった。次に,ガラニン受容体の卵管内局在を調べるために,卵管を構成する膣部,子宮部,峡部,膨大部の各粗膜分画と^<125>I-ガラニンをインキュベーションしてガラニン結合量を比較した。膣部と子宮部に高いガラニン結合量が検出され,峡部や膨大部の結合量は極めて低かった。
- 広島大学の論文
- 2000-12-28