侵入型化合物 R_2Fe_<17>Z_3(R=希土類元素,Z=水素または窒素原子)の磁性
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概要
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近年,金属間化合物磁性体の格子間位置に,原子半径の小さな窒素(N)や炭素(C)など非金属原子を侵入させることによって,優れた機能を持った磁性体の開発研究が脚光を浴びている。1990年,トリニティー大学のCoeyとSunは,2-17希土類鉄化合物Sm_2Fe_<17>の格子間位置に窒素を侵入させることによって,キュリー温度が350Kから750Kに上昇し,磁気モーメントは約20%増加,さらに一軸磁気異方性エネルギーが極めて大きくなることを発見した。現在,Sm_2Fe_<17>N_3の永久磁石化への応用研究と同時に,磁気特性の改善メカニズムの研究が理論,実験の両面から積極的に進められている。しかしながら,侵入型化合物は主に,気相-固相反応を利用して合成するため,これまで微粉末試料を用いた研究を余儀なくされてきた。このため,窒素の侵入サイトと窒素量,窒素侵入に伴う磁気モーメントの変化や結晶磁気異方性エネルギーなどの評価には,研究者によって大きなばらつきがあり,窒素侵入に伴う2-17希土類鉄化合物の磁気特性の改善機構について,未だ不明な点が多い。本論文は,こうした現状を克服するため,モデル物質として,Y_2Fe_<17>,Y_2Fe_<17>N_<3.1>粉末試料及び,Nd_2Fe_<17>,Nd_2Fe_<17>Z_3(Z=H, N)単結晶試料を取り上げ,基礎磁性の面から総合的に研究した結果をまとめたものである。以下に,各研究の目的,実験結果ならびに検討結果を要約する。1. Y_2Fe_<17>及びY_2Fe_<17>N_<3.1>の中性子回折 窒素侵入型2-17希土類鉄化合物R_2Fe_<17>N_3の窒素原子の侵入する格子間位置(サイト)ならびに窒素侵入に伴う鉄副格子の磁性の変化を微視的に調べるため,Rに非磁性のYを用い,Sm_2Fe_<17>と同じTh_2Zn_<17>型構造(空間群,R3m)をとるY_2Fe_<17>を作成し,更に高圧N_2ガス窒化法により良質なY_2Fe_<17>17N_<3.1>粉末試料を合成した。その試料について,温度10Kにおいて中性子回折実験を日本原子力研究所JRR-3の高分解能粉末回折装置(HRPD)を用いて行い,得られたデータの解析は,Rietvelt解析プログラムRIETANを用いて行った。その結果,以下のような事実を明らかにした。1) Nは,c面内でYのまわりを三角形で取り囲む9eサイトに99.5%,また18gサイトに3.9%侵入し,このとき各サイトにおける窒素の占有率から求めた窒素量は,Y_2Fe_<17>1モル当たり3.2(1)で,窒化前後の質量増加から見積もった窒素量3.1(1)とほぼ一致した。2) Nの格子間位置への侵入により,10Kにおける格子定数a,cはそれぞれ2.0%及び2.4%増加し,Fe-Fe原子間距離は平均約2%増加した。3) Feは4つのサイト(6c, 9d, 18f, 18h)を占めているが,サイトの違いを反映して,Feの磁気モーメントm_<Fe>の値が異なることを見出した。つまり,Y_2Fe_<17>において,平均Fe-Fe原子間距離が短い9d,18hサイトのm_<Fe>は,Feの3d電子雲同士の重なりの影響を強く受け,約1.9μ_Bで最も小さい。他方,平均Fe-Fe原子間距離が最も長い6cサイトのFeは,3d電子雲同士の重なりの影響は小さく,そのm_<Fe>は約2.2μ_Bで最も大きい。4) 窒化によりFeの磁気モーメントは,1学式当たり33.0から38.6μ_B/f. u. へと増加した。このとき,窒素侵入に伴うFe-Fe原子間距離の増加によって3d電子雲同士の重なりが減少するため,9eサイトのNから遠い6c,18h,9dサイトのFeのm_<Fe>は,大きく増大した。特に,9eサイトNから最も遠い6cサイトのm_<Fe>は,最も大きく2.9μ_Bに達した。一方,9eサイトNの最近接に位置する18fサイトのFeのm_<Fe>は2.0μ_Bで,他のサイトのm_<Fe>と比べ最も小さく,その3d電子とNの2p電子との混成による影響を強く受けていることを示唆する。全体としてみると,前者の効果が大きく作用するので,窒化によりFeの磁気モーメントは,約17%も増加したものと結論した。2. Nd_2Fe_<17>単結晶の結晶磁気異方性 次に,窒素侵入に伴うR副格子の磁性への影響を調べるために,まずNd_2Fe_<17>単結晶を育成し,その磁気特性を研究した。 Nd_2Fe_<17>は,他の軽希土類化合物と同様に,液体から固体への凝固反応ではなく包晶反応によって生成する化合物である。そのため,その単結晶の作成は難しく,これまで純粋なNd_2Fe_<17>単結晶を用いた磁性研究の報告はなかった。本研究では,Nd_2Fe_<17>化合物の結晶磁気異方性の起源を調べる目的で,Nd_2Fe_<17>単結晶をフラックス法で作成し,6Tまでの磁場中で4.2Kから室温までの各結晶主軸方向の磁化測定を行い,以下の知見を得た。
- 1997-12-28
著者
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