異方的超伝導体における境界散乱効果
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概要
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銅酸化物高温超伝導体や重い電子系の超伝導状態,液体^3Heの超流動状態等の非s波的な秩序パラメータを持つ系の理論的及び実験的研究が近年盛んに行われている(1)(2)(3)。中でも銅酸化物高温超伝導体の場合,秩序パラメータがd波の対称性を持つ可能性が示唆されており,STMによる状態密度の測定が数多くなされている。しかしながらSTMを同じ試料に対して行ってもs波を示唆するデータやd波を示唆するデータが得られるため(4)-(12),対称性を決定付けるだけの有力な証拠は今のところ得られていない。理論的にはs波の対称性であれば状態密度は零エネルギー付近に超伝導ギャップが観測され,d波の対称性であればV字型の状態密度が観測されるため,STMに於いても状態密度のデータに超伝導ギャップが見られるかV字型になっているかに焦点が当てられている。しかし,STMでバルクな系での状態密度が観測されるのであればs波とd波では上述のような区別が可能であるが,実際にはSTMでは試料表面の状態密度が観測されることが知られており(13)(14),表面状態密度は一般にはバルクの状態密度とは異なっている。従ってSTMで得られたデータを考察するためには,表面の効果を取り入れた議論が必要である。本研究の目的は,異方的超伝導状態の中でもd波超伝導状態を取り上げ,表面の効果を取り入れた状態密度がどのように影響を受けるかを理論的に調べることである。これらの研究内容は文献(15)(16)で既に公表している。超伝導状態は超伝導秩序パラメータが有限に残っている状態であり,超伝導状態の特性は秩序パラメータにより全て決定される。バルクな系の場合,秩序パラメータには空間依存性はないが,表面が存在する場合には一般に空間依存性を持つようになる。従って,表面を持つ超伝導状態の理論的取り扱いに於いては空間変化する秩序パラメータを得なければならない。しかしながら,表面のある系や近接系を議論したものの多くは簡単のために空間変化のない秩序パラメータが用いられている。現実の系により則した議論を行うためには,秩序パラメータの空間依存性は無視できない。これらの理論的取り扱いに於いては,準古典的Green関数を用いる方法が有力である。準古典的Green関数は2階微分方程式に従うGor'kov Green 関数のFermi波長程度の細かい空間依存性を粗視化したもので,1階微分方程式に従うため,秩序パラメータだけでなくFermi波長に比べて十分長いスケールでの物理量の空間変化を記述するのに非常に有用である。本研究では,この準古典的Green関数を用いて理論を展開した。表面が存在すれば当然粒子は反射されるが,反射は理想的に表面と平行方向の運動量成分を保存したまま行われるのではなく,現実の系は表面に原子スケールの粗さがあると考えられるため,理想的な反射以外の反射も考慮する必要がある。この粗さによる反射を考慮したモデルとして,Randomly Rippled Wa11 (RRW)モデル(17)-(24),Thin Dirty Layer (TDL)モデル(25)(26),Randomly Oriented Mirror (ROM)モデル(27)等が提案されている。松本らは,境界のあるd波超伝導体に対してRRWモデルを適用し状態密度を議論した(28)。しかしながら彼らは空間変化のない秩序パラメータを用いて議論しているため,境界散乱効果が正しく考慮されていない。更にRRWモデルでは,境界面の粗さを2つのパラメータで特徴付けるのであるが,これらのパラメータの選び方と境界散乱の乱雑さの度合との関係が明確ではないという困難が伴うため,境界面が理想的に滑らかな場合(specular limit)から完全に乱雑な散乱のみが起こる場合(diffusive limit)までを統一的に記述することは出来なかった。しかし本研究では,これらの困難を散乱行列の導入で補うことが出来,先の準古典的Green関数を用いることにより表面に原子スケールの粗さのある系を記述する方法を定式化し,specular limitからdiffusive limitまでを統一的に扱うことが出来るようになった(15)(16)。以上の方法を半無限d波超伝導体に適用したが,銅酸化物高温超伝導体はa-b面内(CuO_2面内)で超伝導状態が擬2次元的に実現していると考えられているため,本論文では簡単のため完全な2次元系として議論した。この時d波の対称性にはd_<xy>と呼ばれるものとd_x^2-_y^2と呼ばれるものが存在し,それぞれ秩序パラメータはΔ(x)sin 2θ,Δ(x)cos 2θと定義される。Δ(x)は秩序パラメータの空間変化の部分であり,θは境界面の法線方向とFermi運動量とのなす角度である。秩序パラメータの空間変化はgap方程式と呼ばれる積分方程式をself-consistentに解くことによって得られる。この解をd_<xy>,d_X^2-_y^2の場合それぞれについてspecular limitからdiffusive limitまでの幾つかについて調ベた。
- 広島大学の論文
- 1996-12-28