近藤半金属 ceNiSn の単結晶育成と評価
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概要
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1.序論 近年,希土類元素のセリウム(Ce),サマリウム(Sm),イッテルビウム(Yb)などを含む金属間化合物の研究が盛んに行われている。これらの化合物は,希土類の4f電子と配位子の伝導電子との混成に依って,価数揺動状態や重い電子状態などの特異な物性を示す事が知られている。また,これらは磁性元素である希土類イオンが格子を組んでいるにも拘わらず近藤効果を示すので近藤格子化合物と呼ばれる。近藤格子系は基底状態で,増強されたパウリ常磁性,弱い反強磁性,非BCS超伝導,或いはそれらが共存した状態を示す[1]。本研究で取り上げたCeNiSnは,低温で電気抵抗が増大するCe化合物として初めて見い出された物質である[2]。これまでにも半導体的性質を示す希土類化合物としてSmB_6やYb_12などが知られていたが,CeNiSnの発見により近藤格子系におけるエネルギーギャップ形成の問題が改めて見直され,実験と理論の両面から盛んに研究される様になった。半導体的Ce化合物として,CeNiSnに続いてCe_3Bi_4Pt_3[3]とCeRhSb[4]が見い出され,それらは,近藤半導体或いは近藤絶縁体と呼ばれる様になった。近藤半導体のエネルギーギャップは,電子相関の強い4f電子が関与した多体効果に依って生じる為に,その大きさは約100Kと小さく,しかも温度上昇とともに消滅する。この点が古典的半導体のSiやGeにおける1eV程度のバンドギャップとは異なり新しい。これまでの研究結果から,CeNiSnのエネルギーギャップ形成について以下の様な知見が得られていた[5]。電気抵抗,ホール効果,比熱,核磁気共鳴(NMR),トンネル分光の実験から,10K以下の低温でCeの4f電子と配位子の伝導電子が混成してできた重い準粒子バンドの中に10K程度のV字型のエネルギーギャップが形成される事が明らかになった。更にCeサイトとNiサイトの置換効果の研究からは,ギャップ形成には格子の周期性に基づくコヒーレンスの発達が重要である事が判ってきた。この様な実験的研究の進展は,近藤格子系におけるギャップ形成についての理論的研究を促した。しかし,重要な問題点も数多く残されている。一つは結晶に含まれる微量不純物の効果である。CeNiSnのエネルギーギャップは10K程度と小さい為に不純物の影響を強く受ける事が予想される。0.1Kまでの比熱とNMRの結果は,ギャップが形成された後もV字型ギャップの底に有限の状態密度が存在する事を示している。第二はギャップの異方性である。比熱とNMRの結果から提案されたV字型状態密度は,エネルギーギャップが異方的で,ある方向で閉じている事を強く示唆する。本研究では,近藤半導体CeNiSnの本質的な物性を明らかにする事を目的とした。この為に,CeNiSn純良単結晶を作製し,その電気抵抗,磁気抵抗,比熱の測定を行った。2.単結晶育成 CeNiSn単結晶は高周波炉とアーク炉を用いたチョコラルスキー法及び赤外線加熱炉を用いた浮遊帯域溶融法により作製した[6]。表1に結晶育成の詳細を示す。電子プローブミクロ分析による組成分析の結果,結晶の組成は原料仕込み比に依存せず1%以内の誤差で1 : 1 : 1になっている事が判った。不純物相としてCe_2O_3,CeNi_2Sn_2,Ce_2Ni_3Sn_2がそれぞれ5×5μm^2,20×5μm^2,50×2μm^2程度の大きさで結晶中に分散している。これらの内,Ce_2O_3とCeNi_2Sn_2は,結晶育成炉の真空度を良くした上で炉内を空焼し雰囲気を改善した結果,#4以降の結晶では検出限界以下に減少した。それでも残留するCeNi_2Sn_2は,更に固相電解法による純良化処理を施す事に依って#5と#8では0.1%以下に滅少した。
- 広島大学の論文
- 1996-12-28