アカマツ林火災跡地の土壌微生物バイオマスの測定
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概要
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広島県南部の瀬戸内海沿岸では,風化花崗岩地帯のアカマツ林を中心に,毎年のように大規模な山林火災が発生している。この地域のアカマツ林火災跡地では,山林火災が生態系の諸生物相や水・養分物質の収支に及ぼす影響やこれらの二次遷移における変化について総合的な調査が行われてきた。しかし,一連の研究の中で,森林生態系において分解者の位置にある微生物群集に関する調査はほとんど行われていなかった。生態系の物質循環において,土壌中の微生物群集は物質の化学的変換や生物遺体の分解の担い手という役割に加えて,最近の研究では,微生物細胞の代謝回転が早く,しかも細胞内の養分物質の濃度が高いという特徴のため,植物に対する可動性の養分物質のシンクおよびソースとしての機能も有していることが示された。この土壌微生物群集の働きは,土壌中への有機物や養分物質の供給が大きく減少したような山林火災跡地での植生の回復に対して非常に重要であると考えられる。微生物による物質の化学的変換や分解の程度および養分物質の微生物細胞内の保持量は,該当する系内に存在する微生物の種類,量および活性に依存している。したがって,物質循環の観点から土壌微生物群集の役割を評価するには,微生物の現存量(微生物バイオマス)および微生物の代謝回転速度の2点を測定することが必要である。そこで本研究では,火災跡地における土壌微生物群集の役割を解明するための第一段階として,火災跡地の土壌微生物バイオマスの測定を試みることにした。ところで,土壌中の微生物は微細であり,しかも土壌という非常に不均一な環境に生息しているため,その数や量を正確に測定することは困難とされてきた。しかし,1976年以降生化学的または生理学的手法を利用した測定法が開発され,土壌中の微生物バイオマスは比較的容易に測定できるようになった。ただし,これらの新しい測定法は,必ずしも全ての土壌について正確な値を与えるとは限らないため,あらかじめ供試する土壌に対して最適な測定条件を検討しておく必要がある。本研究では,火災跡地という特殊な環境にある土壌を分析に使用するため,土壌中の微生物バイオマスを測定するにあたって,供試する土壌に対するバイオマス測定法の適用性をまず検討しなければならない。本研究は,アカマツ林火災跡地の土壌に適した微生物バイオマス測定法の検討およびその方法を用いた微生物バイオマスの測定を行い,微生物バイオマスを構成する微生物の組成を明らかにした上で,火災跡地の二次遷移における土壌微生物群集の役割を解明することを目的とするものである。調査地として,広島県南部の瀬戸内海沿岸に位置する焼失後の経過年数の異なる7カ所の元アカマツ林,および2カ所の非焼失アカマツ林を選んだ。火災跡地の土壌中の微生物バイオマスの測定には,Jenkinson and Powlson (1976)により開発されたクロロホルムくん蒸-培養法を使用することにした。土壌をクロロホルム殺菌し,この土壌に少量の新鮮土壌を微生物源として接種し,そののちに土壌を培養すると,接種した微生物が死滅微生物体を基質として利用する結果,死滅微生物体の無機化に由来するCO_2の突発的発生が見られる。本法はこの発生CO_2より微生物バイオマスを求めるというものであり,微生物バイオマス測定値は炭素重量で表示される。ただし,本法は必ずしも全ての土壌に対して妥当なバイオマス値を与えるとは限らず,酸性土壌ではバイオマスを過小評価し,有機物を投与した直後の様な富栄養的な状態にある土壌や石灰質土壌などでは,バイオマスを過大評価する傾向にある。本研究で扱う土壌はすべて酸性である。さらに焼失直後の土壌は地表の灰から溶脱・流入した養分物質や易分解性の有機物などを含んでおり,富栄養的な状態にあると考えられる。この地域のアカマツ林火災跡地での土壌の化学的および微生物学的性質の調査結果によると,火災直後の土壌の富栄養的な状態はおよそ6カ月継続するということである。そこで,富栄養な状態が治まるといわれる火災後6カ月以上を経過した土壌と非焼失地土壌,および焼失直後の土壌とを区別して,それぞれの土壌についてくん蒸-培養法の適用性を検討した。まず前者に該当する火災後3年を経過した地点の土壌および非焼失地の土壌について検討した。これらの土壌に,Jenkinson and Powlson (1976)のバイオマス算出法をそのまま適用すると,微生物バイオマス(B)を過小評価するので,B={F(クロロホルム処理土壌からの0-10日目の間のCO_2発生量)-UF'(無処理土壌からの10-20日目の間のCO_2発生量)}/k_cの代わりに,B={F-F'(処理土壌からの10-20日目の間のCO_2発生量)}/k_cを使用することにした。
- 1996-12-28
著者
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