<学位論文要旨>磁場中の超伝導体における秩序パラメータの混成効果
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概要
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最近,酸化物超伝導体やheavy fermion超伝導体など新しい超伝導体が続々と発見され,それらの超伝導状態が従来の金属超伝導体と同じであるか,新しい超伝導状態であるかという点に多大な興味がもたれている。一般に結晶の対称性が決まると,それに応じて超伝導の秩序パラメータが持ち得る対称性がいくつかに限定される。通常はそれらの可能な状態のうち,最も高い超伝導転移温度を与える一つの状態が実現しており,異なる対称性を持つ状態が混成していることは少ない。しかし,いくつかの状態の対相互作用の大きさが接近している場合は,状態間の混成が重要になる場合が生じる。特に,外部磁場がかけられたり,後述するFulde-Ferrell (FF)状態[1] [2]のようにCooper対の重心運動量qが有限の値を持ち秩序パラメータが空間的に変調しているような場合には,体系の対称性が制限されるために混成が起こる。本研究の目的は異なる対称性を持つ秩序パラメータの間の混成効果について,上部臨界磁場を中心に調べることである。最近,heavy fermion超伝導体UPd_2A1_3やCeRu_2 [3] [4]などにおいてFF状態の可能性が議論されている。通常の超伝導体では,上向きスピンの電子と下向きスピンの電子の間で,対凝縮状態がつくられている。弱磁場では,対破壊はエネルギー的に不利であり,従って,スピン分極はほとんど無く帯磁率は小さい。強磁場の場合はスピン分極した方がエネルギー的に有利になるため,対破壊が起こり常伝導状態に転移する。FF状態とは,スピン分極と対凝縮が両立した状態である。すなわち,スピン分極して異なるFermi運動量を持つ上向きスピンの電子と下向きスピンの電子の間にCooper対が形成される。その結果Cooper対は有限の重心運動量qを持ち,運動エネルギーの面からは不利になるが,磁化エネルギーと対凝縮エネルギーの得によってFF状態が安定化する。Gloosら[5] [6]は,UPd_2Al_3の上部臨界磁場の下に一次転移線が存在することを発見した。UPd_2Al_3の磁場-温度相図が,理論的に得られているFF状態の相図と類似していることから,彼らは,一次転移線と上部臨界磁場との間はFF状態である可能性があると主張している。しかし,Gloosらの相図では,強磁場相は超伝導転移温度近傍にまで存在しており,FF状態は低温領域にしか存在しないという従来の理論的結果と合わない。従って,Gloosらが発見した強磁場相がFF状態であるとするならば,FF状態が高温領域にまで存在するための機構を明らかにする必要がある。heavy fermion超伝導体では,同じ六方晶系でも,UPt_3のようにスピン三重項超伝導体と考えられている物質やUPd_2A1_3のようにスピン一重項超伝導体と考えれている物質があり,異なる対称性を持つ状態がほぼ等しい大きさの対相互作用を持っている可能性がある。以下に述べるように異なる対称性を持つ秩序パラメータの間の混成を考慮すると,FF状態が大幅に増強され,より高温領域にも存在することが示せる。実験的に見つかったheavy fermion超伝導体の強磁場相がFF状態であり,混成効果によって増強されている可能性が十分に考えられる。本研究では,議論を簡単にするために球対称なFermi面を仮定し,磁場下の超伝導体における秩序パラメータの混成による効果,特に,上部臨界磁場付近における常伝導状態とFF状態の間の二次相転移,常伝導状態と渦糸状態の間の二次相転移における混成効果を調べる。球対称なFermi面の場合,秩序パラメータはCooper対の軌道角運動量ℓで分類され,ℓ=0,1,2…である状態をそれぞれs波超伝導,p波超伝導,d波超伝導…と呼ぶ。混成状態の二次相転移を扱うために,ScharnbergとKlemm[7]がp波超伝導の上部臨界磁場を議論する際に用いた方法を一般化して使う。まず,典型的な例として,s波超伝導体がs波対相互作用に加えて相対的に弱いp波対相互作用を持つ場合を考える[8]。対相互作用をV(k・k')=-g_0-3g_1k・k'(g_0>g_1>0)と書く。kは波数ベクトルを表し,k=k/|k|である。外部磁場がない場合は低温に至るまで混成は起こらない。しかし,外部磁場が存在すると,Cooper対の重心運動量がq=0の場合においても混成状態が実現し,上部臨界磁場が大きくなる。混成が生じるのは,磁場が存在することによってスピン空間及び軌道空間の対称性が破れるためである。Cooper対の重心運動量qが有限の値であるFF状態においては必然的にs-p混成が起こり,その混成が大幅にFF状態を増強し,上部臨界磁場を大きくするとともに,FF状態の上限温度を高くする。p波対相互作用の大きさがs波対相互作用に等しい特殊な場合においては,FF状態の上限温度は超伝導転移温度に等しくなる。FF状態でs-p混成が起こるのは,Cooper対の重心運動量qが存在し,それと垂直な面に関する鏡映反転対称性が破れているためである。
- 広島大学の論文
- 1995-12-28