<学位論文要旨>セリウム化合物及びウラン化合物の熱電能
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概要
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I.序論近年,金属磁性の分野でセリウムやウランを合む化合物の示す重い電子状態が注目を浴びている。この様な重い電子状態では,f電子状態と伝導電子間の強い混成相互作用によってフェルミ準位付近に電子の巨大な状態密度が形成され,伝導電子の見かけ上の質量が増大すると考えられている。この巨大な状態密度のために重い電子系化合物では巨大な電子比熱係数δや大きなパウリ常磁性帯磁率χが観測される。また,電気抵抗は近藤効果によって-lnTで増大した後,低温でコヒーレンスの発達に伴って減少する。さらに重い電子系化合物での状態密度の増大は熱電能にも大きな影響を与える。通常金属の熱電能の拡散項は伝導電子を自由なフェルミ粒子として扱ったボルツマン輸送方程式からモット式として次のように導かれ,熱電能は伝導度σのケミカルポテンシャルηでのエネルギー微分によって決定される。S_d=(π^2)/3 (k^2T)/e((δInσ(ε))/(δε))η一方,セリウム化合物ではフェルミ準位ε_Fに大きな状態密度N (ε_F)を持つ4f電子によって伝導電子が散乱されるため,比較的大きな熱電能が生じる。このとき熱電能の拡散項は,モット式の変形により次式で表現される。S_d=(π^2)/3(k^2T)/(|e|)((δInN(ε))/(δε))ηこのとき熱電能は電子の状態密度のケミカルポテンシャルηでのエネルギー微分によって決定される。重い電子系化合物の熱電能は,フェルミ準位付近での巨大な状態密度のために通常金属の数十倍に増大し,さらに電子状態の変化に敏感に反応して特徴ある温度変化を示す。例えば,CeAl_3の熱電能は結晶場効果と近藤効果によって正の極大を持つ。一方,反強磁性秩序を示すCeAl_2では正の極大を示した後,低温で反強磁性的なスピン相関の発達に伴って負の極小を示す。またCePd_3,CeBel_3,CeSn_3等の価数揺動化合物では強いc-f混成によってバンドが形成されるため,100K以上の比較的高い温度で巨大な正の極大を示す。この様に熱電能は重い電子系化合物の状態密度の変化に極めて敏感であり,電子状態についての有効な情報を提供する。本研究では独自に熱電能の測定装置を制作し,以下の様にCe化合物及びU化合物について熱電能の測定と解析を行った。1.高濃度近藤状態から不純物近藤状態へ変化させた場合に,コヒーレンスの消失に伴う近藤効果や結晶場効果の変化を調べるために,高濃度近藤効果を示すCePd_2Si_2のCeをLaで置換したCe_<1-x>La_xPd_2Si_2の熱電能の研究を行った。2.近藤半導体のギャップ形成機構を調べるために,近藤半導体CeNiSnとCeRhSbの単結晶及び同じε-TiNiSi型の結晶構造を持ちながら金属的な近藤格子化合物であるCePtSnの熱電能の研究を行った。さらに,近藤格子としてのコヒーレンスとギャップ形成との関係を調べるために,CeRhSbにおいて,周期律表でRhの右隣に位置するPdでRhを部分置換し,その効果を熱電能,電気抵抗,帯磁率,磁化の測定によって研究した。3.近藤効果と結晶場効果との関係について,また近藤効果と強磁性的な相互作用との関係についての知見を得るために,低励起結晶場準位を持つと予想されるCePd_2Al_3とCeRh_2Sb_2及び強磁性を示すCePdSbの熱電能の研究を行った。4.従来,ウラン化合物の熱電能の系統的な研究は殆ど行われていないので,遍歴的な5f電子をもつと考えられる六方晶系反強磁性ウラン化合物の熱電能の特徴を見いだすために,UNi_4B,UCu_<3+x>Ga_<2-x>,UPt_2Inの熱電能の研究を行った。II.実験結果及び考察1. Ce_<1-x>LaxPd_2Si_2の研究CePd_2Si_2の熱電能は100K付近で結晶場励起準位での近藤効果に依る正の極大を持ち,25K付近で反強磁性的なスピン相関の発達に伴う極小を持つ。CePd_2Si_2のCeをLaで希釈しても熱電能に現れる結晶場ピークの温度はxに依らず,さらにCe濃度当たりの極大値はほぼ一定である。この結果から,Ce_<1-x>La_xPd_2Si_2系ではCeの4f電子の局在性が強いので,不純物近藤状態から高濃度近藤状態までに渡って結晶場分裂や近藤温度は殆ど変化しないと判断される。また近藤効果と反強磁性秩序の競合のために,x=0.3,0.55,0.7の各試料では熱電能にT_Nで鋭い極大が現れる。この系では,コヒーレンスの消失に伴う熱電能の挙動の変化は観測されなかった。2.近藤半導体の熱電能CePtSnの熱電能は各軸方向とも約150Kに正の幅の広い極大を持ち,30-40Kで負の極小を示す。この極大は結晶場の存在下での近藤効果による電子散乱の結果であり,負の極小は反強磁性的なスピン相関の発達に伴って現れる。また,T_M=5Kでの反強磁性構造の非整合-非整合転移は単結晶試料のb軸方向の熱電能に顕著な折れ曲がりとして現れる。CeNiSnの熱電能は,約100Kと20-30Kに大きな正の極大または肩を持ち,6-8K以下で急激に増大し約3Kで極大を示す。
- 広島大学の論文
- 1995-12-28