<学位論文要旨>常伝導-超伝導近接系における Meissner 効果
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概要
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常伝導金属(N)を超伝導金属(S)と接合すると,S層からN層内部に超伝導秩序が滲み出してくることが知られている(近接効果)。このため,N層も超伝導性を示すようになる。このような接合系に磁場をかけて温度を下げていくと,S層が超伝導状態に転移すると同時にMeissner効果によって反磁化が生ずるが,その反磁化の値はS層で完全に磁場が遮蔽された後も温度の低下と共に増加してゆくことが観測される。この反磁化の増加分は,N層での磁場の遮蔽によるものであり,近接効果によってN層にも超伝導秩序が存在し,その超伝導秩序は温度の低下と共に成長することを示唆している。このようなN層のMeissner効果は,近接効果によって常伝導金属が示す超伝導性のひとつとして興味のもたれている現象である。本研究の目的は,この現象を理論的に調べることにある。N層のMeissner効果に関する最初の理論的研究は,Orsay groupによって行われた。この研究では,London方程式をGL領域で扱うことによっていわゆるdirtyな系が調べられている。一方,系がcleanな場合には反磁性応答の非局所性が重要になり,London方程式を適用することはできない。また,試料の端やN-S境界面での散乱が重要になってくるために問題はさらに複雑となり,cleanなN層のMeissner効果に関する理論的研究は遅れていた。たとえば,後述のscreening lengthはOrsay groupによって導入され,その後多くの実験で測定結果が報告されているが,cleanな系での理論的知見は与えられていなかった。また,系がcleanな場合の反磁性応答に関してはZaikinによる報告があるが,彼は次のような非常に理想的な接合系のモデルに基づいている。即ち,電子はN,S両層で同じFermi速度をもち,その波動関数はN-S境界面で滑らかにつながっているような,言い換えれば,境界面での電子の反射の無い体系で,さらにS層の超伝導秩序パラメタは空間的に一様であると仮定されるモデルである。このようなモデルは,磁場が無い場合でも最近までのcleanなN-S系の理論で扱われてきた。しかしながら,現実の系では境界の反射率は有限であるのが普通で,仮に波動関数が境界で滑らかにつながっているとしてもFermi速度が違うだけでFermiレベルの電子に対して反射率Rは有限の値R=(ν^N_F-ν^S_F)^2/(ν^N_F+ν^S_F)^2(ν^<N, S>_FはN,S側でのFermi速度)をもつ。境界での反射の効果は,特にcleanな系では重要になる。何故なら,cleanな系では,電子は境界の効果を層内部でも覚えているからである。また,S層の超伝導秩序パラメタは系が並進対称性をもっていないために空間的に一様ではありえず,N-S境界付近で減衰することが知られている。これらの課題は,最近の準古典的Green関数に基づく理論の進展によって扱われるようになり,その重要性が指摘されてきた。そこで本研究では,準古典的Green関数を用いて超伝導秩序パラメタの空間変化と境界面での有限の反射を考慮に入れて,cleanなN-S系の反磁性応答を記述する理論を提案した。準古典的Green関数は通常のGreen関数のFermi波長程度の微細な空間依存性を粗視化したもので,物理量のFermi波長に比べて十分長いスケールの空間変化を記述するのに有力な方法である。超伝導秩序パラメタに特徴的なコヒーレンス長程度の空間変化は準古典的Green関数で記述できる。我々は,弱磁場中のN-S系において,有限の反射率を考慮した境界条件を満たす準古典的Green関数の解を一般に空間変化している超伝導秩序パラメタのもとで構成することに成功した。こうして得られたGreen関数からcleanなN-S系における反磁性電流の一般的な表式を得た。この結果を用いて,cleanなN層の示すMeissner効果について議論した。以下で,本研究で得られた主な結果をまとめる。Green関数による定式化については長くなるので省略する。x-y平面を挟んで有限の膜厚をもつ常伝導金属 (-L_N<z<0) と半無限の超伝導金属 (0<z) を接合したN-S系における常伝導層の反磁性応答を考える。ベクトルポテンシャルをA=(A(z), 0,0) と選び,磁場をy方向(境界面に平行)にかける。良く知られているように,dirtyな超伝導金属の反磁性応答は局所的ないわゆるLondon方程式で記述される。同様に,dirtyなN層も局所的な反磁性応答を示すであろう。超伝導金属との違いは,N層中の超伝導秩序パラメタはN-S境界面から十分離れるとexp[z/ξn]に比例して減衰し,N-S境界面付-ξ_N≳z<0の領域にしか存在しないことである。ここで,ξ_NはN層のコヒーレンス長で,系がdirtyな極限ではO=√<ν^N_Fℓ_N/6πT>(ℓ_NはN層での平均自由行程,Tは温度),cleanな極限ではξ_N=ν^N_F/2πTと与えられる。したがって,dirtyなN層は磁場をN-S境界面からξ_N程度の領域のみで遮蔽する。
- 広島大学の論文
- 1994-12-28