<学位論文要旨>軟体動物アフリカマイマイにおける口筋運動調節機構
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概要
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軟体動物アフリカマイマイ(Achatina fulica)は,その中枢神経節内に同定可能な多数の巨大ニューロンを有し,神経生物学的な研究に有用な材料を提供している。本研究では,動物の行動発現の神経的基盤を探るため,アフリカマイマイの摂食行動に注目し,この動物における口筋収縮の調節機構と,律動的な摂食運動パターンの発生機構とを同定ニューロンレベルで明らかにすることを目的とした。1.口筋収縮の調節機構 主に口球神経節中のニューロンによって駆動される口球の運動リズムは,歯舌伸出期,歯舌牽引期,休止期にわけられる。本研究では,生理学的,形態学的な基準に基づき,アフリカマイマイの口球神経節中に,口筋に対する運動ニューロンを7対同定し,B1∿B6,B10と名付けた。これらのうち,B1∿B6は歯舌牽引期に活動する筋を支配し,B10は歯舌伸出筋を支配していた。同定ニューロンのうち,B4-歯舌牽引筋間,B10-歯舌伸出筋間の伝達物質を,阻害剤を用いた薬理学的な実験によって調べたところ,B4とB10の主な興奮性伝達物質は,いずれもアセチルコリンであることが示唆された。さらに本研究においては,アフリカマイマイにおける二つのタイプの筋収縮調節様式を明らかにした。一つは,B4とB10ニューロンによって引き起こされた歯舌牽引筋と歯舌伸出筋それぞれの収縮を,1対の脳神経節ニューロンが修飾する例。もう一つは,B10ニューロンによる歯舌伸出筋収縮が,B10自身がもつペプチドによって修飾される例である。脳神経節に同定されているv-CDNs(ventral-right(left)cerebral distinct neurons)は,B4発火あるいはアセチルコリン投与による歯舌牽引筋収縮に対して増強効果を示した。v-CDNは歯舌牽引筋に直接軸索を送っており,v-CDNの細胞体,軸索経路,及び歯舌牽引筋中の神経終末はセロトニン様の免疫応答性を示した。またB4発火,あるいはアセチルコリン投与による歯舌牽引筋収縮は,セロトニンを筋に与えることによっても増強された。これらの結果から,v-CDNによる筋収縮増強は,その末端から放出されたセロトニンが,筋に直接作用することによってもたらされていると考えられる。またv-CDNは,B10による歯舌伸出筋収縮も,主に筋に直接作用することによって増強した。歯舌伸出筋に対するコリン作動性の運動ニューロンB10は,アフリカマイマイから単離した生理活性ペプチドACEP-1(Achatina Cardio Excitatory Peptide-1)様の免疫応答性を示した。B10発火によって筋に引き起こされた興奮性接合部電位(EJP)はACEP-1投与によって増大し,それに伴って筋収縮が著しく増強された。一方アセチルコリン投与による筋収縮は,ACEP-1投与によって影響を受けなかった。すなわちACEP-1は,アセチルコリンと共にB10から放出され,シナプス前部であるB10の神経終末に作用してアセチルコリンの放出を増大するように働いているものと思われる。2.口球リズムの発生機構 口球のリズミックな運動を駆動するような神経活動(Rhythmic Motor Activity, RMA)の中心は口球神経節に存在するが,本研究では,口球神経節内のRMAを開始させる能力を持つニューロンを脳神経節中に2対,口球神経節中に1対同定し,その特性を調べた。口球神経節ニューロンB1は,はじめ,口筋に対する運動ニューロンとして同定されたが,このニューロンを持続的に発火させると,口球神経節内にRMAが発生することがわかった。B1発火によって発生したRMAは,B1を連続的に発火させている間維持されたが,B1の発火を止めるとすぐに止まった。しかしながら,RMAが自発的に発生しているときには,B1は,それ単独でRMAを発生させるために必要とされたような高い頻度の連続発火は示さなかった。v-CDNは,前述の筋収縮増強効果に加えて,口球神経節におけるRMAの発生に対して指令ニューロン的な能力を示した。v-CDNを連続的に発火させると,RMAが発生し,v-CDNの発火を止めた後もしばらくの間リズムは持続した。この持続的なRMAを発生させるという点が,B1や後述のC1と異なる。さらに,セロトニンを神経節に投与することによってもv-CDN刺激と同様の効果を得た。脳神経節ニューロンC1もまた,口球神経節のRMAに関与していることがわかった。C1は,軸索を口球神経節に投射しており,このニューロンを発火させることによってRMAが発生した。運動リズムは,C1の発火を止めるまで続いた。RMAの継続中,C1はリズムと同期した周期的な抑制性入力を受けた。これは口球神経節からのフィードバックであると思われる。自発的に発生しているRMAの継続中にC1やv-CDNを持続的に過分極させ,その発火を抑えてもRMAは影響を受けない。このことは,口球神経節単独でRMAを発生し得るという結果と矛盾しない。ニンジンジュースなどの味刺激を唇-神経節標本の口唇部に投与すると,口球神経節にRMAが発生した。
- 広島大学の論文
- 1993-12-31
著者
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