<論文>個別漢字の形特性と出力との関係
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概要
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漢字は,非漢字系学習者にとって,日本語学習における最も困難な学習要素の一つである。漢字学習の困難点は多数あるが,その最たるものとして記憶保持あげられている(豊田,1995)。知覚,認識,記憶保持,再生への課程には様々な要因が絡み合っているが,本稿では,個別漢字の持つ形の特性と出力との関係に焦点を当てる。先行研究では画数の多い漢字,斜めの線や点を含む漢字,対称でない漢字,などが再生が難しいとされている(加納1987,駒井1993)。本論では,学習者に課した条件付の作文型式のクイズの回答を分析し,考察した。その結果,1)画数及び直線性は再生の難易を予測する決定的な手かかりではない,2)対称性の弱い漢字は対称性の強い漢字に比べて誤って出力されやすい,3)誤って再生されやすい漢字と再生されにくい漢字とでは漢字のタイプやパターンが異なる,などが明らかになった。今回の分析は漢字の字形特性に注目したものであるが,更なる調査によって,音,意味の特性,漢字間の関係特性も明らかになれば,すべての漢字を一様に扱うのではなく,それぞれの漢字の特性を考慮した教授,学習方法を検討することができる。また,クイズやテストの無答や誤答に対して,正か誤かだけの評価ではなく,その原因を指摘することができるようになると考える。
- 国際基督教大学の論文
- 1996-03-31