多層構造によるエンブロイダリーの表現(第2報)
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概要
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布を重ねることによって濃度の変化(陰影)だけでなく,複雑な色を出したり思いがけない効果(偶然のもたらす効果)が出ることがある。第1報に続き多層構造による素材の扱いと,エンブロイダリーのテクニックを応用して作品製作の実践研究を試みた。作品のテーマは,ノルウェーのフィヨルドの風景である。このハルダンゲルフィヨルドを含むハルダンゲル地方はハーダンガー刺繍の発祥の地である。遠方に険しい山脈が雪をかぶり,フィヨルドの静かな水面と好対照である。手前の古い小屋とリンゴの木は典型的なこの地方の風景(果樹園が多い)である。夏の間このような別荘に住む人が多いそうだ。澄みきった空気,波のない静かな水面,自由にのびたリンゴの木,雑草の花々を自由に表現したいと思う。イメージの表現を重視し,テクニックはフリーステッチで糸は刺繍糸25番の他に,アブローダー,花糸,絹糸,毛糸,麻ひも,藍染めさしこ糸なども使用した。土台布はノルウェーの麻地である。透明度のある布を重ねる事(多層構造)による効果は先に述べた色彩効果の他に,ぼかしが自然にしかも簡単にできたことである。布は原画に基づきハサミでカットしたが,裁ち目の始末はそのままにしたところが多い。ほつれが気になる部分もあったが,従来の布端を折り返す方法や,裁ち目をかがる方法を用いなかったのは,布の面による効果を損ないたくなかったからである。土台布に何層もの布を重ねて,従来の周囲をかがるアップリケではなくキルトをすることで布をとめている(一番多いところは5枚)。土台布の下に重ねた布をとめる時は,その糸が表にひびかないように注意した。この作品は,1998年に服飾学会で発表したものをさらに手を加え完成させた。
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