第三世界労働市場の細分化と還流的人口移動に関する理論的小察
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概要
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いわゆる新古典派経済学は, 第三世界の労働市場細分化の過程を労働力の需要と供給, 賃金, 雇用方針などの制度的要因により説明する。従って, その枠組では行政側が教育, 資本市場といった領域での市場の不完全性を取り除く政策を行使すれば, 市場効果それ自体が制度的障害を駆逐すると考えられている。また, 人口移動は「自由」な個人が「合理的に」各々の細分化したセクターの誘因に応じることで生じる均衡化要因と捉えられる。しかし, 新古典派の枠組では第三世界の市場細分化過程と人口移動の問題を, 寡占的体制の一次セクターを中心としてしか見ることができず, 民族的=文化的境界が移住労働者とホスト社会の境界に重なる場合の葛藤状況を分析に取り込むことが難しい。本論ではマニラの建設業における二次セクターへの労働移住者の資料を利用して第三世界という状況での市場細分化と人口移動を検討する。還流的な出稼ぎが可能な村落部出身の労働者はマニラに民族集団の飛び地を形成し, そのネットワークを利用した二次セクターの"再"細分化は集団内での技能教育の機会を促し, 離職率の低い熟練労働者を生み出す母体ともなっている。そこに西欧的な"市場の不完全性"のみからは語ることが出来ない細分化の功罪がある。