太平洋小島嶼社会のミクロ分析における人口学の利用と誤用 : 批判的検討
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概要
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国民国家レベルのセンサスや動態統計を分析するために発達した人口学は, 社会人類学的な小規模地域社会の研究に援用された場合に理論的および方法論的な幾つかの問題点を露にする。本稿の目的は環礁など太平洋小島嶼社会の人口構造の分析を対象とした既存研究を理論的に検討し, パラドキシカルな関係にある人口学と社会人類学を地域研究の方法として結び付けていく方途を探る事にある。本論では"地域的紐帯を有し, 民族的に定じられる比較的小規模な集団の個別的人口現象を, インテンシブな野外調査法に基づいて分析する事例研究"をミクロ分析と定義する。このミクロ分析の視点から特に(1)ファースのテイコピア研究(均衡論), (2)ベイリス=スミスによるポリネシアン・アウトライヤーの歴史人口誌に対する生態学的接近, (3)キャロルの史的構造論によるヌクオロ社会の人口遷移の分析, (4)レヴィンのユーリピック社会研究(人口移動モデル)について人口学的要因の解釈の仕方を検討した。何れの分析でも何を人口抑制の制限要因と規定するかが重要な出発点となるが, 主因として選択されるものは社会的な価値を有する財からタロイモ, 魚と分析毎に多岐にわたる。また地域の人口遷移モデルを組む場合に各分析とも人口移動と人口分布の問題を等閑視する傾向にあり, ミクロ分析においては地域の史的コンテクストとの絡みでいかにこの二つの要因に基づく人口変動を捉えていくかが今後の争点となろう。