電子顕微鏡によるFRULLANIACEAE(苔類)の胞子の微細構造の研究 III : Subg, Chonanthelia2種の胞子の微細構造
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概要
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この研究に用いたFrullania属の2種はいずれもSubg.Chonantheliaに属し, 主として熱帯アジアに広く分布する.本亜属に所属する各種は外部形態的にも他の亜属のものとは可成り異った所見を示すが, 本研究に用いた上記2種のうち後種は本亜属の普通の形態を具えているが前種は本亜属の中では葉下片(leaf-lobule)の形などに大分違った特長がある.2種の胞子の光学顕微鏡所見での違いは小差ではあるが, 大きさはFr. Wallicianaの方が少し大きく, foraminaの数はFr.neurotaの方が密でやや多い.胞子の概形にも小差はあるが捕える程の違いはない.また両種共光学顕微鏡所見では他のsubgeneraの胞子との間に分類学的特長とするに足る程の違いは見出し難い.電子顕微鏡観察での両種の違いはforamenの直径がFr.Wallicianaの方が大きく, foramina周縁部が中間帯などと全く所見の違った隆起環になっていることは両種共通して他の亜属のどの種にも見られない特長であるが, Fr.neurotaの方が隆起環の高さがより顕著で, 表面の模様も両種で少し違っている.Fr.neurotaでは1隆起環に2-4個のforaminaが囲まれていることが時々見られるが, Fr.Wallicianaでは見られない.最も著しい両種の相違点はforaminaのspines集合部と隆起環との間の中間帯で, Fr.neurotaでは密生した半球状mamillaでおおわれているがFr.Wallicianaでは殆んど平滑である.Foramina内部の棘状突起の数は前種がやや多く, 斜上着生角度は前種が大で後種はより鋭角である.両種共spinesが求心状に配列し, 八重咲き花弁状に重り合って配列している点は共通している.spineの長さは前種がやや短かく, 鋭尖の被針形で, 後種は円頭の被針形で基部と先端部の幅の差も少ない.以上の観察結果を他の亜属のそれと比較してみると1).Foraminaを境する周縁部が他の部分と(例えば中間帯など)全く違った構造の, 著しい隆起環となっている.2).Spine群所見ではspinesは求心的に配列していることは他の亜属にも見られるが, 八重咲き重弁状の求心的spine群の配列は他の亜属の各種の所見とははっきりと区別できる点である.以上の胞子膜表面微細構造上の特長と核型並に分類学的関係とを考えてみると, この研究に用いたSubg.Chonantheliaの核型については辰野及びIversonの報告がある.往年Stephaniその他がSubg.Chonantheliaに属するとした日本産のFr.kagoshimensis Steph., Fr.usamiensis Steph., Fr.Fauriana Steph.及びFr.yakushimensis Horik.などの核型については辰野によって詳細な研究が報告されていたが, 筆者(上村, 1961)の分類学的研究によって上記の日本産の諸種は形態上からもまた辰野による核型の上からもChonantheliaに所属すべきものではなくSubg. Trachycoleaに所属すべきものとし, 従って日本には本亜属は産しないことになった.その後G.B.Iverson(1963)は主として北米産のFrullania各種の核型とその進化を論じた中に, 明らかに本亜属に属すると考えられるFr.riojaneirensisの核型を明らかにし, 本亜属の核型が予想せられる様になったが, それによればFr.riojaneirensisには2型の核型が見られる(1-Thyopsiella-Diastaloba-Type(n=9=7+H+h), 2.Fr.riojaneirensis Variant-Type(n=9=6+2H+h))としている.Iversonの観察が正しいとすれば興味ある問題は, この両核型を持つ既知の各亜属に属する種とFr. Riojaneirensisを含む本亜属の各種との間には外部形態の上に余りにも類似性が乏しく, 殊に前記のFr.riojaneirensisの(2)の核型は日本と朝鮮に産するFr.diversitexta Steph.の核型と殆んど同じである.この種の所属についてはいろいろ問題があったが, 形態学的所見と特異な核型を考慮し, 1961年に筆者はSubg.Frullania, Sect.Diastalobaの中にSubsect.Diversitextaeを新設してこれに所属せしめたが, 少く共上種が外部形態の上からはFr.riojaneirensisを含むSubg.Chonantheliaとの近縁性は考え難い.尚前記のIverson(1963)がFr.riojaneirensisの核型に関連して展開している論議は前記1961の筆者の論文を見ないでなされている.本研究に用いた上記の2種の核型は未知であるが, 外部形態の上からは同じ亜属のFr.riojaneirensisと極めて近縁性をもっている.従来の知見からすれば本研究の2種の核型も恐らくはFr.riojaneirensisのそれと同型である可能性が強い.然し乍ら核型と外部形態的分類との関係には,上記の様な興味ある問題があるのである.ところで, 既に述べた様に胞子の微細形態学的所見からは, 少くとも本研究に用いたSubg.Chonantheliaの2種は既知のどの亜属とも区別し得る属性を見出すことができた.尚, 上記に関連して, Fr.diversitextaの胞子の微細形態については既に筆者の手許に多少の所見デターがあり, 未発表ではあるが少くとも本研究の2種とは共通しない所見であることを附記しておく.
- 高知学園短期大学の論文
- 1973-09-01
著者
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