高度嫌気条件下におけるStreptococcus mutansとStreptococcus sanguisの酸産生に対するフッ素の抑制効果増強とその生化学的機構
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概要
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Streptococcus mutans NCTC10449株とStreptococcus sanguis(S.sanguis)ATCC10556株を高度嫌気条件下で培養し, これらの菌の懸濁液に糖を加えた場合のpH低下と, 一定pHでの酸産生, さらにこれらに対するフッ素の抑制効果を好気条件下と高度嫌気条件下で同時に測定し, 比較した。その結果, S.sanguisでは高度嫌気条件下において, フッ素の酸産生抑制効果は好気条件下よりも増強されることが明らかとなった。フッ素を加えると, 産生される各種の有機酸の量は一律に減少し, 各有機酸の比は変化しないので, このフッ素の抑制効果の増強は発酵転換によるものではなく, 解糖活性全体が低下したことによるものであることがわかった。この生化学的機構を解明するために菌体内の解糖中間体を測定したところ, 高度嫌気条件下では, 3-ホスホグリセリン酸レベルがきわめて低く, 糖取り込みに必要なホスホエノールピルビン酸(PEP)ポテンシャルが低い状態にあることがわかった。このようなPEPポテソシャルの低い高度嫌気条件下では, フッ素によるエノラーゼの阻害のため, 糖の取り込みに必要なPEPレベルが著しく減少するので, フッ素の酸産生抑制効果は好気条件下よりも増強されて表れると考えられる。S.sanguisは歯垢中の主要な酸産生菌であり, 歯垢深部はきわめて嫌気的であるので, このような部位ではフッ素は今まで考えられていたよりも効果的に酸産生を抑制していると考えられる。
- 東北大学の論文
- 1987-12-01