郵貯需要関数の共和分分析と構造変化テスト
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概要
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1990年に一時的な落ち込みをみたものの,郵貯残高は順調に増加している。一方で,民間金融機関の預金債務を中心とするM_2+CDは停滞し,1992年には前年度比マイナス成長にまで陥って,郵貯シフトとの関連が議論された。しかし郵貯自体の需要がどのような要因によって決定されるのかは十分に分析されてこなかったように思われる。そこで,この論文では郵貯需要関数の推計を試みることにしたい。まず郵貯と民間金融機関の定期性預金(マネーサプライ統計における準通貨)の動向を概観すると,前者は総じて順調に伸びているのに対し,定期性預金は1980年代後半の成長率の高まりと,その後の大きな停滞が対照的である。そこでそれぞれの金利の動きを見てみると,1980年代央以前の規制金利時代は郵貯金利(定額貯金金利)が定期性預金金利をおよそ0.25%上回るというルールが存在したようだが,1980年代後半には自由化の進展に伴い,定期性預金金利が相対的に上昇した。これが同時期の定期性預金残高の急速な伸びと関連しているのではないかとの予想が成り立つ。ところが1991年以降,金融政策の緩和に伴い民間金融機関の定期性預金金利は郵貯金利に比し急速に下落し,郵貯が伸びるという事態に到ったと考えることが出来る。そこで単位根検定などの予備テストを経て,郵貯・物価・実質GNP・定額貯金金利(ないしは定期性預金金利との格差)の4変数のシステムで共和分の存在をヨハンセン・テストによってテストしたところ,肯定的な結果が得られた。次に,郵貯需要関数の共和分回帰をFM推計によって求めたところ,価格の係数が3.0を上回るほど大きく出るなど問題もあるが,金利差の変数は有意であった。当初の予想が回帰分析でも確認された形になっている。さらに需要関数の安定性をテストしたところ,1990年後半以降に構造が変化している可能性が指摘された。いわゆる戦後最大かつ最長の平成不況の影響は大きく,なんらかの構造変化が起きている証左かも知れない。
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