<原著>慢性アルコール性膵炎の発生機序に関する実験的検討 : 膵管癒合不全モデルの有用性について
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概要
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慢性アルコール膵炎(Chronic alcoholic pancreatitis : 以下CAPと略す)の発生機序は未だに不明な部分が多い。そしてアルコールの投与のみではヒトCAPに相当する実験モデルは作製されておらず, アルコール以外の何らかの要因が発生機序として関与することが考えられる。田中らはアルコール投与に軽い膵管狭窄を加えることによりヒトCAPに酷似したモデルを作製することに成功し, 膵管狭窄因子はCAPの発生機序に関与していることが明らかになった。しかし, 田中らのモデルの膵管狭窄の作製方法は十二指腸乳頭部にチューブを挿入固定することにより作製されており, はたしてヒトCAPにおいても同様の機序により発症しているか否か疑問点も残る。一方, 膵管癒合不全(Pancreas divisum)は背側膵と腹側膵の膵管が癒合しない発生学的な異常で, 膵液は背側膵では副乳頭(Santorini管)より腹側膵では主乳頭(Wirsung管)より排出される。また, 背側膵領域の膵実質の体積は腹側膵領域のそれよりも多く, 結果的に背側膵は膵液のドレナージ不良に陥りやすいことが判明している。そこで, イヌの膵管系の形態を利用し, 膵の大膵管(ヒトのWirsung管に相当)と小膵管(ヒトのSantorini管に相当)の間で切離することでpancreas divisumモデルを作製し, このモデルにアルコールが与える影響を肉眼的, 病理組織学的および膵液成分について比較検討した。pancreas divisumモデルに3ヶ月間アルコールを投与することで, 背側膵にのみ硬度の増加, 被膜の肥厚, 膵表面の不整および結節状変化が認められ, 小葉間を中心に炎症細胞浸潤を伴う中等度の膵線維化および腺房細胞の脱落が認められ, 中等度の慢性アルコール性膵炎像とみなされた。また背側膵からの膵液のみ総蛋白とヘコソサミンの上昇, 粘稠度の増加および重炭酸濃度の低下が認められた。またpancreas divisumのみのモデルでは3ヶ月後の背側膵に組織学的に軽度の膵管周囲の線維化が認められた。アルコール投与, 非投与群の腹側膵では肉眼的, 病理組織学的および膵液分析において変化がなかった。アルコールを投与したモデルでは同一個体において, 背側膵は肉眼的, 病理組織学的所見および膵液分析とすべての因子において膵炎の所見が得られ, 副乳頭と主乳頭のドレナージの差によりドレナージ不良な背側ではアルコールの細胞障害が起こり膵炎に進展すると考えられた。このモデルの背側膵と腹側膵において, 膵管狭窄因子以外はすべて同一条件であり, CAPの発生において膵管狭窄は増悪因子として作用していることが分かり, Pancreas DivisumモデルはCAPモデルとして有用であることが立証された。
- 広島大学の論文
- 2000-06-28
著者
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