<症例>退行期から老年期に実体的意識性を呈した老年期精神障害の3例
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概要
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聴覚, 視覚的要素その他の知覚的要素なしに, 「誰かが自分の近くにいる」「何かが確かに背後にいる」といったことをありありと感じるという体験を, Jaspers K.は実体的意識性leibhaftige Bewusstheit」と呼んだ.このような実体的意識性の体験を, 退行期から老年期にかけて呈した3例を報告した.3症例に見られた体験は現象学的には, 精神分裂病のそれと同様のものと考えられたが, 患者の身体の外的空間の定位に関しては, 精神分裂病者においては患者の背後であるのに対して, 本3例においては患者の前方あるいは隣であった.本3例は共通して孤独な環境, 困難な環境, あるいは困難な生活史を持ち社会的孤立の状態にあった。実体的意識性の体験に関する登場人物は, 嫁, 会社の人, 亡くなった両親などであり, それぞれの生活史に登場する人物であった.そのうち2例はこの登場人物と「敵-パートナー」という関係を, うち1例は文字通りの「パートナー」関係を作り上げていた.これらの登場人物はいずれも実生活において欠如した対人関係を埋めており, 精神病理学的には, 患者は「孤独で-世界の-中に-立っている」と考えられた.またこの体験は, 皮膚寄生虫妄想の精神病理と比較して, 心的体験が身体外空間で捕らえられたものと考えられ, 心的体験の対象化の障害の一種と考えられた.
- 2000-12-25
著者
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人見 一彦
近畿大学医学部精神神経科学教室
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人見 一彦
近畿大学医学部附属病院メンタルヘルス科
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人見 一彦
近畿大学医学部奈良病院神経科
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人見 一彦
近畿大学 医学部精神神経科学教室
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向井 泰二郎
近畿大学医学部精神神経科学教室
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杉本 美和
近畿大学医学部精神神経科学教室
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