<平成 13 年度(2002 年 3 月)修士論文要旨>医療過誤における看護婦の民事責任
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概要
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近年, 高度医療機器の普及により医療過誤の量と質に変化が現われただけでなく, 従来であれば, 潜行しがちであった医療事故が法廷の場に登場することも多くなった。看護婦関連の医療過誤の増大は, 現場の看護婦に大きな不安を抱かせている。このような事実を背景に, 看護婦個人に対する保険制度が発足した。この保険制度は, 一面では医療事故の被告となり有責とされた看護婦個人の賠償責任を代位することにより, 看護婦には金銭的な不安を取り除かせるという要素もあるが, 他方では, 従来の医療事故における民事上の責任主体が主として病院や医師だけであったものに, 変化をもたらそうとしている。本稿においては, まず, 看護婦に関する医療過誤の民事責任について限定し, 不法行為の成立要件, 特に過失の認定について考察する。その際, 医療事故による刑事責任との比較を行う。さらに, 最近創設された看護職賠償責任保険が看護婦の民事責任にどのような影響を与えるか, 並びに損害の公平な分担のために看護婦の民事責任を減少させる可能性はないのかなどについて考察することとする。不法行為の一般的成立要件は(1)行為者に故意または過失があること(故意・過失)(2)他人の権利ないし利益に対する違法な侵害があること(権利侵害・違法性)(3)違法な侵害行為により損害が発生したこと(損害発生)(4)違法な侵害行為と発生した損害の間に因果関係が存在することを要件とする。患者と契約関係にない看護婦が医療過誤事件で責任を追及される法的根拠は, 原則として民法709条の不法行為の一般規定である。看護婦の過失に関する不法行為の成立要件, 使用者の責任(民法715条), 使用者からの求償(民法715条3項), 共同不法行為(民法719条)の観点から考察する。保健婦助産婦看護婦法は昭和23年(1948年)に成立した法律であるが, その後一部改正があったものの抜本的な改正はなされていない。50年以上前の創設時と現在の社会状況とでは, 医療の高度・専門分化, および社会の医療・看護に対する価値観の変化からも隔たりがあると言わざるをえない。看護業の独立・自律のためには, 看護婦の裁量の範囲と看護婦にも許容するような業務に関する法改正が必要であると考え改正案を提案する。2001年(平成13年)11月, 看護職賠償責任保険制度の創設がなされた。看護職賠償責任保険は, 法的責任のうち, 民事責任である賠償責任に関するものである。高度な医療の参画にはそれに伴うリスクも大きい。これは, 看護婦は民事責任, つまり損害賠償責任を負わないという従来の趨勢に変化をもたらさざるを得ない状況である。看護婦手足論の終焉, 看護水準論の導入, さらに看護職賠償責任保険制度の導入は, 看護業務を医業から独立した独自の業務と解することになろう。看護婦が医師または病院などとは個別独立して責任を負うべきであるか否かは, 看護業務にどの程度独自性を認めるかにかかっている。医療活動に対する結果が思わしくなかった場合, 医師の過失のみに留まらず, 看護婦の過失が問題とされる事例が増加している。看護婦個人が刑事告訴されるというだけでなく, 医療機関や医師の損害賠償責任を問われる民事告訴においても, 看護婦の過失が争点となるものはその態様自体も深刻かつ複雑化している。看護職賠償責任保険制度が日本看護協会により発足した今, 看護婦の裁量でなされた医療過誤においては, その責任はこれまでのように使用者責任としての病院または医師の責任ではなく, 使用者責任として問われる病院または医師の責任の双肩として看護婦個別の独立した責任としての民事事件として損害賠償の責任を問われるということになるであろう。医療過誤は, 看護婦個人の責任問題を超え, 医療機関の構造に根本的な原因がある。そのような責任を民事上看護婦個人に課することは, 一層看護婦に萎縮効果を与え, 国民のより質の高い医療を受ける利益に反し, 適切な看護業務が提供されないという問題も生じよう。これを理論的に解決するには, 刑法上, 利用される「期待可能性」の理論を民事責任にも適用すべきである。医療過誤に関しては, 看護婦個人が考えなければならない問題であることはもちろんのこと, 看護職全体として取り組まなければならない問題, また従事する組織全体としての問題, 他の医療従事者との関係における問題等, 医療の現場で解決すべきことは多々あるが, そのベースとなる法的な視点を加味した検討が必要であると考える。今後, 法的視点での看護業務の見直し, 看護職賠償責任保険の動向, それに伴う求償権の問題, 判例からの過誤に対する解決の変遷の検討, さらに看護職の質的向上を目指した法的提言をしていきたいと考えている。
- 2002-03-20
著者
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