地方交付税の算定構造・配分構造に関する分析
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概要
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本論では, 筆者が以前参加した地方交付税に関する実証研究(参考文献(1)(2))の分析手法を踏襲して, その後10年後のデータと新たな視点を追加して, 普通交付税の算定構造・配分構造のこの間の推移について比較検討する.それによって, バブル発生期とその崩壊期を挟んで, 財政逼迫に陥っている自治体財政と分権化時代の地方交付税制度の改革について考えてみる.以下, 200都市データを用いて行った本論における実証分析の結果と政策提言について要約する.1)基準財政需要額の総額は人口と面積によって統計的にほぼ(98%以上の)説明が可能である.この算定は複雑で精緻な仕組みをもつが, 人口と面積(および若干の補正)によるシンプルで透明な制度に変えてもよいのではないか.2)1人当たりの基準財政需要額は, 人口と面積の両方についてU字型曲線の構造を持ち, その構造は年を追うごとに安定している(ここでは両者を対数の関係で捉えている).その水準の伸びを見ると, 名目GDPや名目政府支出の伸び率よりも高く, 実質水準が漸次引き上げられてきたことが分かる.恒常的な拡大メカニズムの存在が示唆される.3)基準財政需要額(1人当たり)の拡大は, 人口規模の小さな都市域でより顕著に起こっており, 傾斜的な算定が強まっていることが推察される.普通交付税(1人当たり)と個人所得の関係で見ても, 人口規模の小さい都市ほど再分配効果が強まっている.交付税制度の最大の欠陥は, インセンティブ構造の欠如にあると筆者は考えている.地方税収とのリンクをはずし, 税収増減が自治体財政に直接反映される仕組みを取り入れるべきである.4)基準財政需要額の算定に, 人口と面積に加えて公債費を追加すると99%以上の説明力となる.地方債の利払いを普通交付税による後年度負担として算定に繰り入れる仕組みが, 基準財政需要額の実質水準を趨勢的に引き上げる手段に使われてきたと理解できる.特定事業の実施に伴う地方債の公債費負担に普通交付税を組み入れる仕組みは, まさに交付税の補助金化現象といえる.5)普通交付税と地方債のスパイラル的拡大は, 基準財政需要額の恒常的拡大メカニズムの一端を担ってきたと解釈できる.それは普通交付税の算定構造を複雑化すると共に, 地方自治体の財政逼迫要因を作り出してきたといえる.地方交付税は「一括定額補助金」であるという位置付けを再度明確にすべきであり, 地方債とは切り離すべきである.
- 関西学院大学の論文
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