レチノイン酸刺激によるラット上頸部交感神経節内組織トランスグルタミナーゼの誘導
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概要
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シナプス結合を豊富に含む交感神経節標本をラット上頸部より摘出して, 生理溶液中でインキュベーション (刺激) を行いながら種々のレチノイドを添加したとき, 記憶形成やその維持を支える物質代謝系の指標酵素の一つとして組織トランスグルタミナーゼ (TGase) 活性値を測定し, 以下の成績を得た。<BR>1) レチノイン酸 (2×10<SUP>-5</SUP>M) を生理溶液中に添加すると, 2時間以降から上頸交感神経節内TGase活性の有意な上昇効果が示され, 3時間では非刺激標本内TGase活性値の約3.1倍に達するのが認められた。<BR>2) 13-cis-レチノイン酸 (2×10<SUP>-5</SUP>M) 添加条件 (3時間) では, 約1.9倍の神経節内TGase活性の促進が見られ, またレチナール (2×10<SUP>-5</SUP>M) 刺激では約1.4倍の活性化作用が示された。つまり, これらレチノイドの中で, レチノイン酸刺激が上頸神経節内TGase活性化には最も有効であった。<BR>3) mRNAへの転写過程を阻害するactinomycin D (1.0μg/ml) あるいはタンパク合成阻害剤のcycloheximide (10μg/ml) を添加して刺激 (3時間) すると, レチノイン酸刺激による神経節内TGaseの活性化効果は完全に消失した。<BR>4) レチノイン酸刺激による神経節節内組織TG酵素の活性促進効果は, 酵素反応の動力学的解析により, TGaseの見かけのK<SUB>m</SUB>値にはまったく影響を及ぼさず, V<SUB>max</SUB>値のみ著明に上昇 (約3倍) させる効果が認められた。つまり, レチノイン酸刺激で比較的長時間を経て示される上頸神経節内組織TGase活性化現象は, <I>de novo</I>酵素誘導がTGaseのmRNA転写活性の上昇に引き続いて生じた結果であることが, 酵素反応の動力学的解析成績からも確認された。<BR>以上の成績から, レチノイン酸は記憶形成あるいは記憶の維持を支える機能的な物質代謝系の調節因子の一つである可能性が推測された。
- 社団法人 日本栄養・食糧学会の論文
- 1995-10-10