バランスシート・アプローチによる確率的債務持続可能性分析 : インドネシアの財政を事例として
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿では,Barnhill and Kopits(2003)及びYeyati and Sturzeneger(2007)の手法に倣って,基礎的財政収支の正味現在価値をモデル化し,モンテカルロ・シミュレーションにより基礎的財政収支の正味現在価値の分布を算出する。本稿の分析方法は,従来IMF等で行われているシナリオ分析の方法とは異なり,ベースラインから乖離した様々な状況等や経済環境のリスクの高まりによる現在価値の不確実性の上昇(分布の広がり)を表現することができる。Barnhill and Kopits(2003)では,資産及び負債をフォワードルッキングの観点から評価し,それぞれの資産を時価で再評価するなど,より複雑な分析を行っている。本稿の目的のひとつはバランスシート・アプローチによる分析を発展させるためのベースとなる基礎モデルを提示することにあるので,基礎的財政収支か算出される正味現在価値を評価することを中心に議論する。VAR(Vector Autoregression)で近似した経済環境モデルから基礎的財政収支のモデルを構築し,中央政府の正味現在価値のモンテカルロ・シミュレーションを実行し,現在の債務水準を前提とした推定デフォルト確率を算出する。本稿では,確率的債務持続可能性分析の事例のひとつとしてインドネシアを取り上げる。インドネシアの中央政府の純資産の正味現在価値を計算し,簡易的ではあるが,シミュレーション結果から,推定デフォルト確率(純資産が負になる確率)を算出する。また,政策効果の比較分析の例として,インドネシア政府の燃料補助金の弾力性を低下させるような政策対応を行った場合のデフォルト確率の変化について分析を行う。こうした政策対応により,政府の正味現在価値の分布が正の方向に移動し,デフォルト確率が低下する。さらに,10年先の石油価格の予測により,推定デフォルト確率がどの程度変化するかについて分析をする。石油価格上昇の局面では,燃料補助金の支出が石油収入を上回るため,石油価格が高い場合のほうが低い場合に比べ,推定デフォルト確率が上昇する。
著者
関連論文
- 地域産業関連表を用いた分析事例
- 分権的財政制度と企業立地選択(磯部啓三先生追悼号)
- シャウプ勧告と地方交付税制度
- 中央政府と地方政府の役割分担 : 価値財(私的財)のケース
- バランスシート・アプローチによる確率的債務持続可能性分析 : インドネシアの財政を事例として