コメ生産権取引実験と制度設計への含意
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿では,実験経済学の手法を用いて,わが国の農業経済分野で注目の高いコメの生産権取引制度の設計について検討した。具体的には,二酸化炭素排出権取引に関するHizen and Saijo(2001)とHizen et al.(2001)の2つの先行研究の実験条件をコメ生産権取引の実情に合うように改変し,実験を実施した。実験結果から得られた主な含意は,以下の2点である。第1に本制度導入により,不遵守が生じる可能性は低い。実験結果によれば,不遵守時に一定のペナルティーを課せば,ほとんどの主体が目標値を達成する。しかし,供給地域が超過遵守を恐れて,積極的な取引が行われない可能性が示唆された。この問題を解決するためには,バンキング制度の整備も検討する必要があろう。なお同制度は,期間中の生産量を生産調整目標数量よりも低く抑えることができた場合に,その差を次期目標期間へ繰り越すことを認めるというものである。第2に取引方法に関して,相対取引,イングリッシュオークション(売り手がある付け値を提示し,買い手の誰もがそれ以上の高値を支払おうとしなくなるまで価格を上げていき,最も高値を付けた買い手が財を獲得する),ダブルオークション(参加者すべてが売り手にも買い手にもなることができる)の3つを比較した。その結果,取引価格の安定性を判断基準の1つとすれば,ダブルオークションが望ましいことが明らかとなった。ただ,本実験からも示唆されるが,ダブルオークションが優れているのは,情報量の豊富さとスピードによるところが大きい。したがって,売買注文や取引価格がリアルタイムに表示できるようなハード面での環境整備を行う必要があるだろう。
- 農林水産省農林水産政策研究所の論文