紀伊地方産ハナギンチャク類(腔腸動物・花虫類)
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概要
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日本産ハナギンチャク類は現在まで十分な調査が行われていない。今までに9種(WASSILIEFF, 1908による2種の未同定種を含めて)が報告されているが, それらの記録はすべて1回限りのものである。ただ1つの例外として, ムラサキハナギンチャク (Cerianthus filiformis CARLGREN, 1922) のみがよく知られ, 太平洋沿岸の浅海域に広く分布している。著者はこれまでに紀伊半島沿岸のハナギンチャク3種を得たのでここに報告する。それらは Pachycerianthus 1種と Cerianthus 2種であり, Cerianthus 属の1種は新種と思われる。ムラサキハナギンチャクの形態はよく記載されているので, 他の2種の内部形態と, ムラサキハナギンチャクの色彩変異とを記述した。 Cerianthus punctatus n. sp. (マダラハナギンチャク)はその触手配列と隔膜配列により, 地中海の C. membranaceus (SPALANZANI, 1784)に最も類似するが, マダラハナギンチャクは触手に暗紫色の班点列をもつ事, その他により, C. membranaceus から区別できる。また紀伊地方に普通に見られるムラサキハナギンチャクとヒメハナギンチャク (Pachycerianthus magnus)とが異った環境に分布する事を示した。すなわち, 前者は内湾性の泥地に産するが, 一方後者はやや開けた砂礫地に分布する。最後にこれまでの日本産ハナギンチャクの記載を検討し, Cerianthus misakiensis NAKAMOT0,1923,C. orientalis in WASSILIEFF, 1908及び WASSILIEFF (1908) の未同定の2個体 (Carianthus sp.) がムラサキハナギンチャクに属する事を考察した。
- 国立科学博物館の論文
- 1979-12-01