無輸血にて治療した維持透析中の多発外傷患者の1例
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概要
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症例は60歳の男性。慢性腎不全のため維持透析を週に3回行っていた。横断歩道を歩行中乗用車にはねられ,胸骨骨折,左多発肋骨骨折,両側血胸,両側肺挫傷,右気胸,顔面骨骨折,両側下顎骨骨折,骨盤骨折,第2,3腰椎右横突起骨折,右腓骨近位端骨折,左橈骨遠位端骨折を受傷した。ISSは29であった。出血性ショックとなったが,宗教上の理由により本人および家族が輸血(全血,赤血球,白血球,血小板,血漿)を明確に拒否したため,承諾の得られたアルブミンと輸液にて循環動態を維持した。事故以前から腎性貧血を認め,来院時ヘモグロビン値 10.3g/dLであったが,貧血は徐々に進行し,第54病日にヘモグロビン値3.5g/dLまで低下した。 下顎骨骨折については顎間固定を行ったが,嘔吐や呼吸不全の合併があり12日間で固定除去となった。また他の骨折については保存的に治療を行った。経過中に心不全,呼吸不全となり人工呼吸器管理を行い,さらに慢性硬膜下血腫,脳梗塞,シャント閉塞などの合併症を伴った。しかしながら集学的治療により全身状態は改善し,透析治療を行いつつ輸血なしで貧血も事故以前の水準に改善した。その後意欲障害は残ったものの独歩にて外来通院となった。宗教上の理由により,無輸血で治療した維持透析中の多発外傷症例を経験した。宗教的輸血拒否症例に対する救急治療に関して,今後も議論を要すると考えられる。
著者
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廣間 文彦
健康会新京都南病院外科
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相馬 祐人
健康会新京都南病院外科
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鷹野 留美
健康会新京都南病院外科
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清水 聡
健康会新京都南病院外科
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陳 明俊
健康会新京都南病院外科
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佳山 智生
協仁会小松病院
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河部 純
医仁会武田総合病院救急医療センター