農村地域高齢者の尿失禁発症に関連する要因の検討 —4年後の追跡調査から—
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概要
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目的 農村地域高齢者における尿失禁発症者の生活機能の特徴および尿失禁発症の危険因子について,縦断的データに基づき,総合的に検討する。<br/>方法 本研究は,東京都老人総合研究所の長期プロジェクト研究「中年からの老化予防総合的長期追跡研究」の一環として行われたものであり,対象者は1996年度村の総合健康診査で尿失禁がないと答えた者のなかで,4 年後の追跡調査を受けた男性314人,女性446人,合計760人である。質問紙を用いた面接調査法より既往歴,転倒・骨折歴,主観的健康感,基本的 ADL,老研式活動能力指標による高次生活機能,尿失禁の有無などを調査した。身体機能の測定は握力,片足立ち(開眼,閉眼),歩行速度(通常,最大)であり,血液検査より血清アルブミン濃度,総コレステロール,中性脂肪,HDL コレステロールを求めた。<br/>結果 4 年後の尿失禁の発症率は,男性7.0% (22/314),女性12.3% (55/446)であった。正常群と尿失禁発症群間の初回調査時の形態,身体機能,血液成分を比較した結果,男性尿失禁発症群は年齢が高く,体重の値は低かった。また,バランス能力が悪く,歩行速度が遅いとの特徴とともに,血清アルブミン濃度や総コレステロール値も有意(P<0.05)に低かった。女性尿失禁発症群は,年齢が高く,身長は低かった。握力,開眼片足立ち,閉眼片足立ち,通常速度歩行,最大速度歩行の成績は尿失禁発症群が正常群より有意に悪かったが,血液成分には有意差がみられなかった。尿失禁発症の危険因子は,男性で年齢(1 歳上がる毎に:OR=1.23, 95%CI: 1.11~1.38),血清アルブミン濃度(0.1 g/dl 上がる毎に:OR=0.70, 95%CI: 0.54~0.88),女性で握力(1 kg 上がる毎に:OR=0.92, 95%CI: 0.86~0.98),社会的役割(1 点下がる毎に:OR=1.81, 95%CI: 1.19~2.73), BMI (1 kg/m2 上がる毎に:OR=1.10, 95%CI: 1.01~1.20),喫煙状況(非喫煙者に対する現喫煙者:OR=7.53, 95%CI: 1.36~41.63)であった。<br/>結論 農村地域高齢者の尿失禁発症率は男性より女性で高かった。尿失禁発症の危険因子は,タバコ,BMI,社会的役割など改善可能性の高い変数が抽出されたことから,地域高齢者の尿失禁発症の抑制につながる生活習慣の形成と尿失禁の改善を目指す取り組みが必要であるとの知見を得た。
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