一宗教団体道場に発生した結核集団感染事例における保健所の役割と存在意義
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概要
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目的 宗教団体における結核集団発生の経験をふまえ,精度の高い結核定期外検診を組織的に行うことができる保健所の役割と存在意義について考察した。<br/>方法 京都市内にある「手かざし」で健康を得るという某宗教団体の道場に通所していた信者の肺結核発生届けを京都府 U 保健所が受理した。U 保健所は道場所在地の管轄である K 保健所へ結核定期外検診を1999年 6 月末に依頼した。K 保健所は,教団信者および家族を対象とした定期外検診を実施するため,信教の自由とプライバシーの保護に留意しながら道場内の協力者をつくり,全市的な結核集団感染対策委員会とそのもとに設置された実務的な精度管理委員会の協力を得て,同年 7 月よりマニュアルに従い調査を開始した。調査を進める過程で,発端患者は発症 3 年前から道場に通所していたことが判明し,調査対象を1996年まで 3 年間さかのぼって実施することとした。<br/>結果 1999年 7 月より 3 年間にわたる結核定期外検診対象者総数は96人であり,結核患者18人と化学予防内服者 6 人が発見された。また,発端患者が発症するまえ1996年から1999年の 3 年間に道場に通所していた信者と家族の調査の結果,その中に結核患者10人と化学予防内服者 2 人がいたことが確認された。同宗教団体は接触者を特定しにくく,医療不信の強い集団であったが,発端患者発生届を受理した保健所の正確な情報把握を受けて,K 保健所は道場側と粘り強い接触をおこない,道場長の理解と協力を得ることができた。医療機関での確定診断が困難な症例に対しては,精度管理委員会で胸部レントゲン読影のコメントを出すとともに,検診対象者の住所の管轄保健所と K 保健所で確実な追跡調査を実施することにより,医療機関との連携を密にすることができた。<br/>結論 宗教団体という特異な集団に発生し,しかも比較的規模の大きい結核集団感染の定期外接触者検診を対象者全員に完遂するためには,保健所は漏れのない正確な聞き取り調査と集団の特性に応じた協力者をつくり,情報管理の全体的調整や精度管理を図る組織的な対応の中核となることが重要である。今回の事例では,これらがうまく機能し,医療機関の診断・治療機能を補完することができた。
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