「人とかかわる力」に関する高校生の意識・実態と家庭科
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概要
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<BR>1.目的<BR>現代社会において、人間関係の問題が深刻化、複雑化する中で、<BR>子どもたちの多くは人とかかわることを面倒に思ったり、不安感を<BR>抱いたりしている。しかし、人とかかわることは、個人の可能性を<BR>発揮する上で重要であり、生きていく上で、様々な場面において人<BR>とかかわる力が必要となる。本年3月の東日本大震災においても、<BR>その復興を支える上で、人と助け合いかかわる力の重要性が改めて<BR>注目されている。本研究では、人とかかわる力を「自分と異なる価<BR>値観や考えをもつ他者を理解し尊重するとともに、自分の意見を表<BR>明し、他者と共によりよい方向性を見出す力」と定義する。その上<BR>で、人とかかわる力に影響を与える要因を明らかにし、家庭科教育<BR>においてどのような学習の視点及び学習内容・活動が必要であるか<BR>を検討することを目的とする。<BR>2.方法<BR>福井県内公立高校4校を対象とし、各校の家庭科担当教諭に依頼<BR>して質問紙調査を行った。4校のうち、進学系の普通高校2校をA<BR>群、職業系の農林・商業高校2校をB群とした。対象生徒は家庭科<BR>を学んでいる1・2年生である。配布数796票、回収率100%、有<BR>効票数は793票であった。属性はA群408名(男子214名、女子<BR>194名)、B群385名(男子153名、女子232名)である。調査項<BR>目としては、生徒の意識・実態を測るため、人とかかわる力・意欲、<BR>人とかかわることへの価値、探究経験、市民性、精神的自立、自尊<BR>感情、家庭科への意欲などに関する項目を設定した。分析方法は、<BR>回答を全て4段階で尋ねて得点化し、質問項目及び項目ごとの合計<BR>得点について、性別・学校別・項目別にカイ二乗検定を行い、関連<BR>の有意性を分析した。<BR>3.結果・考察<BR>(1)人とかかわる力と他の項目との関連を見たところ、全ての項<BR>目において有意差が認められた。特に明確であった項目は、探究経<BR>験、市民性、精神的自立、自尊感情、家庭科への意欲であった。探<BR>究経験においては、ある問題に関する背景や原因などについて議論<BR>し探っていく探究的な経験が、特に強い関連を示した。しかし、経<BR>験している生徒の割合が半数に満たないことから、このような学習<BR>の充実が望まれる。さらに人とかかわる力と家庭科との関連において、学習活動では「他者と議論する」「目標を設定し自ら計画を立てて調べる」、学習内容では「子ども・高齢者及び家族」との有意な関係が明らかとなった。<BR>(2)探究経験と他の項目との関連を見たところ、生活的自立、家<BR>庭でのかかわり、市民性、精神的自立、自尊感情との有意差が認め<BR>られた。つまり、探究する経験が豊富な生徒ほど、家庭や社会での<BR>生活において主体的で、家族とのかかわりも充実しており、精神的<BR>に自立し自尊感情も高いことが示された。<BR>(3)以上の分析結果から、人とかかわる力を培う上で、家庭科に<BR>おいて・市民性・生活的自立・精神的自立・自尊感情の視点を組み込んでいく意義が確認された。また、学習内容・活動としては、保育や福祉、男女や家族の関係などを題材に、他者とともに生活における問題について議論し探究する学習を行うことの重要性が示唆された。このような家庭科の学習が、生徒に人とかかわることの価値を実感させ、人とかかわる力をつけることに繋がると考えられる。なお、調査項目とは別に設けた自由記述欄の内容から、現在の高校生が人とかかわることに対して多くの悩みや葛藤を抱いていることが分かった。生徒たちの悩みや葛藤を十分理解した上で、以上のような調査結果を活かし、人とかかわる力を育むための授業開発を行うことが、今後の課題である。<BR>
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