臀部杙創による十二指腸損傷の1例
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概要
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症例は22歳の男性。高さ約2mの台から墜落した際, 長さ160cm, 直径7mm, 先端が鈍のステンレス製の棒が右臀部から刺入した。受傷直後に前進したところ刺入異物が抜けてしまった。初診時, 強い腹痛を訴えており, 臀部杙創による直腸損傷や骨盤内臓器損傷を疑い, 直ちにFAST及び腹部造影CTを実施したが腹水貯留やfree airを指摘できなかった。また, 異物が遺残しておらず異物走行と臓器の解剖学的位置関係を診断の助けにすることができず対応に苦慮した。刺入の深さは不明であったが, 問診からは20cm程度腹腔方向に刺入したと考えられたため診断的開腹術に踏み切った。下腹部正中切開にて開腹したところ, 直腸腹膜翻転部右側縁から約5cm外側に異物の腹腔への刺入痕を認めた。幸い, 下部消化管損傷及び骨盤内臓器損傷を認めなかったが, 十二指腸球部に貫通性損傷を認め修復した。本症例は臀部杙創であり下部消化管損傷や骨盤内臓器損傷を強く疑ったが, 上部消化管損傷は全く想定していなかった。開腹時後壁損傷部は膵周囲脂肪織で, 前壁損傷部は血餅と大網で覆われたことから消化管内ガスが腹腔に漏れ出しにくい状況であったと考えられる。直腸や他の骨盤内臓器損傷を合併しなかった要因として, 1) 異物の径が細く, 先端が鈍であったため周囲組織への影響が少なかったこと, 2) 材質がアルミニウムでたわみやすかったため体内へ侵入した後に抵抗の少ない経路へ迂回したことなどが考えられる。臀部杙創に対する開腹術の適応基準は存在していない。しかしながら, 下部消化管損傷に対する治療の遅れは致命的となる危険性があり, 迅速な対応が必要である。不安定な循環動態を示す症例では可及的速やかに開腹術を実施すべきであり, 初診時に循環動態が安定していても受傷機転, 画像検査所見, 異物の材質, 創部の状態及び刺入の深さなどから慎重に開腹術の適応を考慮すべきである。
- 一般社団法人 日本救急医学会の論文
一般社団法人 日本救急医学会 | 論文
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