犬の僧帽弁弁膜症病変の形態形成に関する病理学的検索
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概要
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僧帽弁弁膜症は犬に高率に発生する心疾患であり, 僧帽弁閉鎖不全症の原因として臨床的に重要な意義を持つ. 本症罹患弁膜に特徴的な病理組織学的変化は粘液腫様変性であるとされているが, 弁膜症病変の本態ならびに形成機序に関しては十分に解明されていない. そこで今回, 僧帽弁閉鎖不全症例を含む犬剖検例81例の僧帽弁を用いて弁膜症病変の形成過程を詳細に検索するとともに, vimentin, α-smooth muscle actin (α-SMA), desmin, transforming growth factor-β (TGF-β) およびplatelet derived growth factor (PDGF) に対する免疫組織化学的染色を施し, 弁膜症病変の形態形成について検討した. その結果, 弁膜症の初期には弁膜のventricularis (心室面) あるいはatrialis (心房面) に限局していた粘液腫様変性が, その後進行性に拡大し, 中期ないし末期にはspongiosa (海綿層) とfibrosa (線維層) を広く巻き込んでいた. また, この段階では粘液腫様変性病巣内に線維増生病変の形成が認められた. 正常弁膜組織内に存在する細胞はすべてvimentinのみ陽性であり, 粘液腫様変性病巣でもその多くがvimentinにのみ陽性所見を示したが, ごくまれにα-SMAあるいはdesminの発現も認められた. 一方, 線維増生病巣ではvimentinに加えてα-SMAおよび/またはdesminを発現する細胞, すなわち筋線維芽細胞が多数出現していた. TGF-βおよびPDGFの発現は粘液腫様変性病巣内の細胞に高頻度に認められた. しかしながら, 線維増生病巣ではTGF-βの発現はもはや認められず, PDGFの発現も間質に限られていた. 以上の所見から, 犬の僧帽弁弁膜症病変は病理組織学的に粘液腫様変性と線維増生とからなることが明らかになった. また, 本病変を形成する細胞は, 粘液腫様変性病巣では線維芽細胞, 線維増生病巣では筋線維芽細胞であり, 線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換にはTGF-βあるいはPDGFが関与している可能性が示唆された. 弁膜症病変にみられるこのような一連の変化は, 粘液腫様変性に伴う抗張力性低下に抗するための弁膜の構造的リモデリングの1つとして捉えられた.
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