在宅高齢者の二重課題歩行の関連要因
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概要
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目的 日常生活で同時に二つの行為を行う場合,注意や判断能力の低下に伴い高齢者の転倒の危険は高まる。知的作業を用いる副課題と歩行運動からなる二重課題歩行テストは,心身機能の低下を推測する上で有用である。これまで本邦でテストの特性を検討した報告は少ない。本研究は自立した在宅高齢者を対象に二重課題歩行テストを行い,転倒要因との関連を明らかにすることを目的とした。<br/>方法 長野県松本市が実施した「出前ふれあい健康教室」に参加した中高齢の住民296人の測定を行い,このうち在宅自立高齢者127人を解析対象者とした。二重課題歩行テストは「二桁数字逆唱を副課題とした歩行」とし,通常の「自由歩行」を併せて測定した。歩幅,歩行速度,ケイデンス(単位時間内の歩数)を歩行能力の指標とした。他の測定項目は短縮版ストループテスト遂行時間,認知症スクリーニングテスト(RDST–J),片脚立位保持時間,老研式活動能力指標とした。性,年齢別に,副課題の有無による歩行能力の差を検討した。つぎに歩行能力を従属変数,副課題の有無と各心身機能高低 2 群(短縮版ストループテスト遂行時間,RDST–J,片脚立位保持時間)および転倒既往有無を独立変数とした二元配置分散分析を行った。<br/>結果 対象者の平均年齢は75.4±6.0歳,女性102人(75.2±6.1歳),男性25人(75.9±5.6歳)であった。自由条件と副課題下で,ともに歩幅とケイデンスの男女差を認めた。後期高齢女性のみ自由歩行と比べて二桁数字逆唱時の歩行速度は低下した。副課題の有無と心身機能高低の条件の組合せによって歩行能力の違いを示した。転倒既往の有無や副課題との組合せは歩行能力に関連しなかった。<br/>結論 活動能力を保持した高齢者でも,心身機能が低値の場合に二重課題歩行を行うと,歩幅,歩行速度,ケイデンスが低下する傾向にあった。機能低下傾向にある高齢者では副課題の処理のため歩行への注意配分が減り,同時に,歩行動作を維持するために緩慢な動作になると考えられた。今後の課題は,将来の転倒との関連や介入効果の指標の検証がある。
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